日本は動物愛護後進国なのかー3 続・米国編
愛誤の主張、「欧米は動物愛護先進国で、引き取り手のない犬猫等はノーキルシェルターで終生飼育される」は大嘘です。今回は米国でのnokill shelterをご紹介します。
愛誤は「欧米は動物愛護先進国で日本は後進国」という主張の根拠として以下を挙げています。
1、欧米は犬猫の殺処分を行わない、もしくは極めて限定的。
2、引き取り手がない犬猫は、ノーキルシェルターで終生飼育する。
3、国民に「犬猫の命は大切で殺してはならない」という意識が根付いている。
そして日本はそれに反するから動物愛護後進国なのだと。今回は、米国のnokill shelter,animal shelterについて述べたいと思います。「米国では、犬猫を公的ノーキルシェルターで終生飼育をする」という愛誤の主張は真っ赤な嘘です。
まずshelterの意味ですが、本来は・名詞~避難所、・動詞~保護する、守る、です。animal shelterは直訳すれば「動物の避難所、保護するところ」となります。nokill shelterを直訳すれば「殺さない避難所、保護するところ」となります。
米国にはanimal shelter,nokill shelterという名称の施設が存在します。それを聞きかじった日本の愛誤が「米国は犬猫等のペットを避難所で保護し、殺処分は行わないのだ」と勘違いし、「米国では犬猫等のペットは殺処分しない。ノーキルシェルターで終生飼育する」との誤った情報を流布して定着したのだと思います。
では、nokill shelterの定義を見てみましょう。以下は英語版wikipediaによる、nokill shelterに関する記述です。
nokill shelter
A "No Kill" shelter is an animal shelter that do not euthanize animals that can be adopted, reserving euthanasia only for animals that are terminally ill or considered dangerous.
ノーキルシェルターは、動物を(個体数調整のために)安楽死させるための施設ではありません。
しかし病気の末期または(譲渡するには)危険と思われる動物に限り安楽死することができる動物保護施設です(拙訳)。
つまり、病気の末期で治療の施しようがない個体、又は凶暴で危険なために一般譲渡できない個体に対して安楽死を行う施設です。ノーキル(殺さない)施設ではありません。ましてや施設で終生飼育を行うことはあり得ません。
animal shelterについての定義を挙げます。以下は英語版wikipediaによる、animarl shlterの記述です。
Animal shelter wikipedia
An animal shelter is a facility that houses homeless, lost, or abandoned animals; primarily a large variety of dogs and cats.
The goal of the modern animal shelter is to provide a safe and caring environment until the animal is either reclaimed by its owner, placed in a new home, or placed with another organization for adoption.
動物シェルターは、主に犬や猫などの多種多様なホームレス、見捨てられ捨てられた動物を収容する施設です。
現代の動物シェルターの目的は、動物が新しい家、その所有者によって引き取られること、または施設に置かれ養子縁組のために別の組織に配置されるまで、安全で思いやりのある環境を提供することです(拙訳)。
米国においては、nokill shelterは末期の病気か凶暴などの理由で一般譲渡できない個体を安楽死させるのが目的の施設です。一方、animal shelterは保護した犬猫等をもとの飼い主に返すか一般譲渡を目的とした施設だと言えます。
しかし、私が前回の記事で紹介したとおり、animal shelterでは、近年ではほぼ100%近い安楽死率なのです。
Euthanasia rates rise as animal shelters struggle「安楽死率上昇であえぐアニマルシェルター」
近年では、米国によるアニマルシェルターでの安楽死率が高まっていて98%です。この記事の分析によれば、経済状況の悪化でペット飼育を放棄する飼い主が増えていることを一因として挙げています。
wipediaによるanimal shelterの定義「動物が新しい家、その所有者によって引き取られること、または施設に置かれ養子縁組のために別の組織に配置」は全く実現されてはいません。
米国におけるanimal shelterは、日本の保健所、動物管理センターと同じ機能と言えます。日本の保健所でも、収容した犬猫をもとの飼い主に返還したり一般譲渡する率は数%くらいあります。もしかしたら米国のanimal shelterよりその比率は高いかもしれません。
shelter,nokill shelterというワードが直訳され、日本で誤解を招いていると思います。一般的に、日本人より米国人の方が直截的な表現が多いと言われます。私もそのような先入感を持っています。でも、米国人の方が日本人よりはるかに婉曲な表現を用いるので違和感を感じることがあります。
例えばsub-prime loanという言い回しです。sub-prime loanは、住宅ローンを利用できる最低ランクの与信力の人たちのためのローンです。移民で非正規従業員で年収30,000ドルに達しないような人たちです。融資する側からすれば実際はjunk(クズ)なのですが、sub-prime (最も優良な客に次ぐ)と婉曲な言い回しをします。最優良顧客はpuper-primeと言われます。
対して日本ではプライムレートと言えば、文字通り最優遇金利です。他にも米国人の婉曲表現を感じることがありますがね、微妙なニュアンスは説明しがたいですが。nokillが原則殺処分というのも婉曲表現と思います。
「米国ではシェルターやノーキルシェルターで収容した犬猫等は殺処分しないかほとんどまれ。一般譲渡できなかった犬猫等はシェルターで終生飼育する」という愛誤の主張は大嘘です。しかし私はそれを持って「米国だって動物愛護後進国じゃないか」と言っているのではありません。
米国は移民社会で、英語も十分に使えない人も多いです。また多民族社会においては、共有のルールで規律だった行動をとることは難しいと思います。移民など中低所得層でもペット飼育は普及しており、彼らの経済状況の悪化などでペットを放棄するのはやむを得ないでしょう。また米国は、飼育ペット数は莫大な数です。そのような国でノーキルは不可能です。
犬猫等のペットを殺処分するのはやむを得ないのです。ノーキルに近づけようとすれば、完全に繁殖をコントロールすること、完全管理の飼育を実現し遁走を防止すること等が必須です。しかし飼育を継続できない事情が生じたり、ペット繁殖で先天性障害のある個体が生じたりするケースもあり、完全ノーキルは不可能です。動物愛護の実現のためには、適正飼育化が第一で、節度のある殺処分はやむを得ないのです。
むしろ適正飼育の実現なしにノーキルを主張するのは動物愛護に反します。「欧米は殺処分はせずに、不要な犬猫等は施設で終生飼育される」というのは、愛誤の妄想、脳内の虚構の桃源郷です。
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