動物愛護に関するマスメディアの無知~読売新聞の愛知県捨て猫引取り拒否報道
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動物愛護問題の、マスメディアの無知に驚かされることがしばしばあります。無知を装って日本に大嘘プロパガンダを拡散させる意図があるのか、真意は定かではありません。先月、愛知県の警察署に届けられた捨て猫を保健所が引取りを拒否し、県動物保護管理センターの支所長が警察署員に対し、その猫を逃すように指示したことで2名は、動物愛護管理法違反(遺棄)容疑で書類送検されました。その事件を受けて読売新聞は、「環境省が(動物愛護管理法違反の)遺棄の定義を明確にしていない」との批判を行っています。しかし既に環境省は「愛護動物の遺棄」に対して見解を示しています。
発端となった事件です。中日新聞 CHUUNITI Webの記事より引用します。 捨て猫保護断る 知多の施設支所長ら書類送検。2014年5月16日。
愛知県警生活経済課は、東海署に届けられた捨て猫を共謀して逃がしたとして、動物愛護管理法違反(愛護動物の遺棄)の疑いで、県動物保護管理センター知多支所(愛知県半田市)の男性支所長(53)と東海署の男性会計課長(59)を書類送検した。
昨年10月ごろ、愛知県大府市の動物病院前で、段ボール箱に入れられて捨てられている雌の子猫をこの病院の職員が見つけ、東海署に届けた。
署の会計課長は知多支所長に保護を依頼した。
支所長は「自力で生きていける場合は引き取れない」として保護を拒否し「逃がして」と猫を遺棄するよう唆したとされる。
会計課長は支所長の言葉を受け、署近くの東海市大田町の畑に猫を遺棄したとされる。
猫の遺棄を教唆した動物保護管理センター知多支所長は書類送検されるのは止むを得ないとしても、警察署に届けられた猫の処分方法に困り、遺棄した東海警察署員はお気の毒です。この事件を受けて読売新聞は、「このような自治体の混乱を避けるために、環境省は愛護動物の遺棄についての統一的な基準や運用指針を作るべきだ」と主張しています。
問題の記事を引用します。YOMIURI ONLINE 中部発。引き取りか拒否か 捨て猫、対応様々。2014年5月20日。
捨て猫の保護を巡り、自治体の対応がまちまちになっていることが、わかった。
愛知県では先月、県警東海署に届けられた捨て猫を、県動物保護管理センターの支所長が逃がしてくるよう、そそのかしたとして動物愛護管理法違反(遺棄)の教唆容疑で書類送検された。
一方、三重県などでは、法に基づいて引き取っているといい、自治体によって異なる対応に遺棄の定義を求める声が上がっている。
(愛知県)大村知事は、今回のような問題を未然に防ぐため、同法を所管する環境省に遺棄の定義を明確にするよう求める意向を明らかにした。
今回の事件の背景として各担当者が口をそろえるのが、同法で規定された遺棄の定義のあいまいさだ。
愛知、岐阜県と同様の対応を取る大阪府の担当者は、「同じことをやっても書類送検されたりされなかったりするという、ちぐはぐな対応では困る」と話し、「(遺棄の)法律の解釈を環境省が明確に示すべきではないか」と求める。
動物愛護管理法に詳しい吉田真澄・帯広畜産大元副学長は、「自治体の混乱を避けるため、国は統一的な基準や運用指針を作るべきだ」と指摘している。
しかし読売新聞の本記事は、誤りであると言わざるを得ません。取材した記者の無知か、調査不足でしょう。環境省は、愛護動物の遺棄罪の成立要件、所有者不明猫の引取りについてもいずれも見解を示しています。
まず、愛護動物の遺棄罪についていです。政府諮問会議 第2回「動物の愛護管理のあり方検討会」平成16年3月1日、において、環境省は愛護動物の遺棄罪の成立要件についての見解を既に示しています。第2回「動物の愛護管理のあり方検討会」の議事概要について 、資料2 虐待及び遺棄の防止規制 。
その中で環境省は、愛護動物の遺棄罪の成立要件として、次のように挙げています。
遺棄とは、危険な場所に移置させる行為や、危険な場所に遺留して立ち去る行為(置き去り)のことであるといわれている。
遺棄は、遺棄された動物が人に迷惑をかけたり、人の生命・身体・財産等に危害を及ぼすおそれがあるという意味では、虐待より問題の巾が広くなっていると考えられている。
動物愛護管理法の法益の一つである「他人に迷惑や危害を与えないという適正管理」の面を強調すると遺棄罪成立の巾は広がる。
虐待と遺棄を、「動物愛護の公序良俗の保護」という法益のもとで統一的に理解すべきものとする立場からは、遺棄も残虐な処遇といいうる程度のものであることを要するということになるため、人に迷惑や危害を与えないという適正管理の面については副次的に考えることが妥当であるとされている。
以上より、環境省が示した愛護動物の遺棄罪の定義は、次の3点に要約できると思います。
1、危険な場所に移置。
2、もしくは危険な場所に遺留して立ち去る行為(置き去り)。
3、人に迷惑や危害を与える不適正な愛護動物の管理という面についても考慮される。
つまり、東海警察署員が拾得物して届けられた猫を動物管理保護センターに持ち込んだところ、引取りを拒否されて放獣した事件は、1及び3の見地からすれば愛護動物の遺棄罪(東海警察署員)と教唆(動物保護管理センター支所長)は、環境省の見解によれば成立するということになります。「危険な場所」は、屋外は全て危険であると考えられます。
読売新聞が「環境省は遺棄罪についての定義を明確にすべきだ」と記事で記述するのは、あまりにも無知、調査不足と言わざるを得ません。
また、ある行為について犯罪が成立するか否かについて、国(環境省、行政機関)について判断を求めるというのもおかしなことです。日本には、三権分立の原則があります。つまり立法府(議会、政治家)、行政府(行政機関)、司法はそれぞれ独立した権限を持ち、介入してはならないという原則です。
「ある行為について犯罪が成立するか否か」は、司法が判断することです。本件であれば検察に送致され、検察が起訴の必要性を判断し、最終的には裁判所が有罪か否かを判断します。「ある行為が犯罪が成立するか否か」は、多くの判決の積み重ねにより、一定の基準ができます。ですから読売新聞の記述のように、「愛護動物の遺棄罪の基準を環境省が示せ」というのはおかしいのです。環境省が遺棄罪の成立について、あまりにも行政指導が行き過ぎれば、司法権への介入になります。
なお、環境省は、猫の引取りについてもこのような見解を示しています。 「(犬猫の)引取りに関しては、生活環境の保全上の支障を防止するため引取りが必要と判断される場合にあっては、例外なく引き取らなければならない」。○犬及び猫の引取り並びに負傷動物等の収容に関する措置について最終改正:平成25年環境省告示第86号、不適正な多頭飼育に起因する「虐待を受けるおそれがある事態」及び法第に基づく引取りを求める相当の事由がないと認められる場合について 35 条に基づく引取りを求める相当の事由がないと認められる場合について 。
また、動物愛護管理法35条3項においては、所有者不明犬猫に関しては、自治体は例外なく引き取らなければならないとの義務規定を定めています。本件は所有者不明猫ですので、愛知県動物保護管理センターは、引き取らなければなりません。また、他の自治体も同様です。
「生活環境の保全上支障を防止するため」には、例外なく引き取らなければならないとの環境省の見解(平成25年告示第86号)も考慮すれば捨て猫の引取りは、生活環境の保全上必要です。ですから愛知県動物保護管理センター知多支所が、所有者不明猫の引取りを拒むのは違法です。この環境省平成25年告示第86号については、別の機会に論じます。
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