畜産家は家畜を守るために犬を殺すことが合法なイギリス

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(Summary)
18,500 livestock (in the UK) had been killed by dogs, costing £1.1m (up 35% on the previous year).
A farmer is allowed to kill the dog if it’s worrying their livestock.
記事、
・イギリスの犬の殺処分数は民間アニマルシェルターも含めた総数では8万頭。その数は人口比で日本の約40倍、
・イギリスのペットの殺処分数は40万頭以上で2年連続で増加した~2022年、
・イギリスでは廃レースドッグや危険犬種等の殺処分があるが、それは殺処分の集計には含まれない、
の続きです。
連載記事では2022年の公表の昨年のイギリスの犬の公的殺処分と民間の殺処分の合計は8万頭で、その数は人口比で日本の約40倍であることと、犬以外の猫と小動物を含めた殺処分数は昨年は204,000頭~408,000頭のペットを殺処分していると推定されていることを述べました。しかしこれらは行政が捕獲した所有者不明犬と、民間保護団体が飼主から受け入れた犬猫等のペットの殺処分だけの集計です。しかしイギリスには、他にも犬の公的な殺処分制度と、産業動物としての廃レースドッグの殺処分などの殺処分があります。さらにイギリスでは畜産家が家畜を守るために犬を殺害することが合法です。これも上記の殺処分の集計には含まれません。
連載記事では、イギリスでは行政が行う犬の公的殺処分数は年間7000頭前後で安定しているものの(イギリスでは猫の公的殺処分はない)、その数よりはるかに多い民間のアニマルシェルターでの殺処分があります。それを合わせれば犬は年間8万頭で人口比で日本の40倍近くあります。犬以外の猫などのペットも含めた殺処分数は204,000~408,000頭で、人口比で日本の16~32倍もあります。
しかしその数には例えば警察が行う法律で飼育が禁止されている犬の強制殺処分の年間約500頭や、イギリスではドッグレースが行われていますが、廃レースドッグの殺処分数千頭は含まれません。動物愛護団体による犬と犬以外も含めたペットの殺処分数の集計数もしくは推計値は、各自治体に調査票を送り得られた回答と、民間アニマルシェルターへのヒヤリングを元にしているからです。警察が行う禁止犬種の強制殺処分は管轄が警察であり、廃レースドッグの殺処分は産業動物で調査の対象ではないからです。
前回記事では、「イギリスでは年間の殺処分数は犬が8万頭で日本の40倍近く、それ以外のペットも含めた数は204,000~408,000頭で人口比で16~32倍だが、それに含まれない警察やレースドッグの殺処分などがある」ことを書きました。今回記事ではさらに、「イギリスでは畜産家が、家畜を犬の被害から守るために犬を殺害することが合法で、相当数ある」点について述べます。畜産家が犬を殺害したとの報道は、イギリスではかなり頻繁にあります。
まず最初に、「イギリスでは畜産家が犬から家畜を守るために犬を殺すことが認められている」法的根拠について、イギリス警視庁の資料から引用します。
・Animal crime 「動物犯罪について」 イギリス警視庁ホームページ
Livestock worrying
Livestock worrying is a criminal offence and comes under the Dogs (Protection of Livestock) Act 1953.
‘Worrying’ is where a dog attacks or chases livestock causing injury or suffering.
A farmer is allowed to kill the dog if it’s worrying their livestock.
家畜に不安を与えること
(犬により)家畜に不安を与えることは刑事犯罪であり、the Dogs (Protection of Livestock) Act 1953 「犬から家畜の保護する法律」の適用となります。
「家畜に不安を与えること」とは、犬が家畜を攻撃したり追いかけたりして、家畜に怪我や苦痛を引き起こすことです。
犬が家畜に不安を与えている場合は、畜産家は犬を殺すことができます。
実際に犬が羊などの家畜を襲い、殺したりけがをさせたりするケースはイギリスでは大変多いのです。またスコットランドでは、過去2年間の間にその損害が4倍に激増しています。それを裏付ける、スコットランド政府文書から引用します。
・Sheep attacks and harassment: research
There is a suggestion that attacks may be increasing.
On the basis of insurance claims in 2015, NFU mutual estimated that 18,500 livestock (in the UK) had been killed by dogs, costing £1.1m (up 35% on the previous year).
This had risen further to £1.6m by 2017.
Their claims figures indicate that dog attacks on sheep and cattle in Scotland quadrupled in the last two years and are running at an all-time high (over £300,000 a year).
the vast majority (96%) of farmers do not make insurance claims when they experience losses as a result of dog attacks .
It estimates that 20 to 25 per cent of its members have experienced dog attacks on flocks.
(犬による家畜への)攻撃が増加している可能性があるという、示唆があります。
2015年の保険金請求に基づいてNFUミューチュアル(=保険会社)は、18,500頭の家畜(イギリス全土)が犬に殺され、110万ポンド(約1億8,700万円)(前年比35%増)の保険支払いの費用がかかったと推定しました。
これは2017年には、さらに160万ポンド(2億7,200万円)に増加しました。
保険会社が主張している数値においては、スコットランドでの羊と牛への犬の攻撃が過去2年間で4倍になり、過去最大(年間30万ポンド以上)の被害が生じているとを示しています。
畜産家の大多数(96%)は、犬の家畜への攻撃で損害を被った場合は、保険金を請求しません。
畜産家の20〜25%が、家畜の群れに対する犬の攻撃を経験したと推定されています。
イギリス全土では犬の攻撃による家畜の損害により160万ポンド(約2億7,200億円)の保険金が支払われたと推定されています。しかし保険請求されるのはわずかで、被害の総額はそれよりもはるかに大きいと思われます。
次は実際に、家畜が犬に襲われて、畜産家が犬の飼主の目前で犬を射殺した事件を報じるニュースから引用します。なお同様の事件は、イギリスでは頻繁に報道されています。
・Farmer SHOOTS dog in front of horrified owner after spotting it attacking his sheep 「畜産家は犬が羊を攻撃しているのを見つけたのちに、恐怖におののく犬の飼主の目前で犬を射殺しました」 2022年3月15日
A DOG has been shot dead by a farmer after it repeatedly bit a sheep.
The family pet managed to break away from its lead and went on to worry some sheep in Disley, Cheshire, on Sunday.
After biting one under its nose and on its chin, the farmer used his legal right to protect his livestock.
Police said that the dog’s owner witnessed the entire “horrific” incident, and could not get the dog to return.
犬は羊を繰り返し咬んだのちに、畜産家に射殺されました。
家族同様のペットは繋がれているリードからなんとか逃げ出して日曜日に、チェシャー地方のディズリーで、何頭かの羊に不安を与え続けました。
犬が羊の鼻の下とあごを咬んだのちに、畜産家は家畜を守るために法的権利を行使しました。
警察によると犬の飼い主はその「恐ろしい」事件をすべて目撃しましたが、犬を呼び戻すことができなかったと言われています。
日本では、犬が家畜を襲って殺したという事件はまず報道されません。羊のような比較的小さな家畜の飼育数が少ないのと、放牧飼育が少ない、大型犬が少ないなどの要因が考えられます。しかし日本では大型犬でも概ね温厚な性格が多く、家畜や人を襲うことは少ないです。なお対人咬傷事故はイギリスは人口比で日本の数倍はあります。
畜産家が法律に基づいて犬を射殺する数は、集計資料はありません(数百例程度はあるというマスコミの報道はあります)。しかし頻繁に畜産家に犬が射殺されたというニュースが報道されていることと、保険金支払いだけで犬による家畜の被害が数億円規模になることから鑑みれば、畜産家が犬を殺害するケースは相当数あると思われます。
繰り返しますが、公的殺処分、その中でも外国の所有者不明犬、野良犬の行政による殺処分数だけを取り上げて日本の公的殺処分数を比較することは無意味です。日本は環境省がすべての都道府県の公的殺処分を1単位でもれなく集計して公表しています。そのような国は他に例を見ません。多くの国では行政が行う犬猫等の殺処分に限っても異なる行政機関が所管であり、国全体のすべてを集計した殺処分数の資料がありません。さらに諸外国では日本ではない、民間シェルターによる殺処分や、私人による駆除も多いのです。
連載ではイギリスの殺処分について取り上げましたが、「犬の自治体が行う殺処分」の他に公的殺処分は「警察が行う禁止犬種の強制殺処分」、さらに連載で取り上げなかった「狂犬病検査による殺処分」、「通関時による検疫不備の犬猫等の殺処分」、「警察犬、軍用犬の引退による殺処分」等があります。これらは数値を公表していない機関もあります。これらをすべて合計したら相当な数になります。
さらに「民間のアニマルシェルターの殺処分」、「レースドッグの民間による殺処分」、「畜産家による犬の駆除」連載では取り上げなかった「犬猫の飼主が私的に獣医師に依頼する安楽死(イギリスでは犬の死因の約80%が人為的な致死処分との学術調査があります)」もあります。
これらの水面下で行われている殺処分を考慮せずに、自治体が行う公的殺処分の数だけで殺処分数を国際比較するのはナンセンスです。これはイギリス以外のドイツなどでも言えます。
(動画)
Sussex farmer describes 'worst ever' UK sheep attack 「イギリス サセックスの畜産家はイギリスで史上最悪の犬による羊の攻撃について説明しています」 2016年3月15日
犬が羊の群れを襲い、パニック状態になった羊が暴走して隘路に流れ込み、折り重なって116頭が圧死したという事件です。被害者の畜産家は「無責任な犬の飼主に対する処罰を厳しくしろ」と要求しています。
現在のイギリスの法律では、放牧地に犬を侵入させて家畜を不安に陥らせた犬の飼主に対しては、「懲役12ヵ月以下か罰金40,000ポンド(約680万円)、もしくはその併科」で処罰されます。そのような規定があり、犬が殺される可能性があっても、犬の管理ができずに家畜に被害を及ぼし続けるイギリスの犬の飼主の飼育レベルが高いとは思えません。
Chichester farmer Gordon Wyeth, the victim of the UK’s “worst case of sheep worrying”, is calling for stiffer penalties for irresponsible owners who let their dogs worry livestock.
イギリスの「羊が犬の攻撃を受けた最悪のケース」の被害者であるチチェスターの畜産家、ゴードン・ワイス氏は、犬が家畜に被害を与えた無責任な飼主に対してより厳しい罰則を要求しています。
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