ペットの殺害での損害賠償額は欧米は驚くほど低い〜ヨーロッパ

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(summary)
In Europe, the amount of damages in court decisions due to the murder of pets is much less than in Japan.
記事、
・判決に見る「犬はあくまでも物のドイツ」、「犬を人並に扱う日本」、
・猫をエアライフルで撃った男を器物損壊罪で軽い処罰としたドイツの地裁判決〜ドイツの司法判断は動物は物扱い?、
・犬の過失致死での損害賠償額はドイツは日本より著しく低い〜猟犬の射殺での損害賠償額は16万円台、
・犬の交通事故死で飼主は加害者に慰謝料を請求したが最高裁は棄却した〜オーストリア、
・アメリカのほとんどの州ではペットの死傷での慰謝料を認めていない、
・アメリカで過失で犬を死なせたことにより慰謝料が認められた例外的な判決、
・アライグマのわなで死んだ犬の損害賠償額は5万円余で慰謝料請求は棄却された〜インディアナ州控訴審判決、
・アメリカの州最高裁判決ではペットの死の慰謝料を否定、また物損額の認定は著しく低い、
・アメリカ州最高裁判決「故意で犬を射殺された飼主への賠償額は155$(1万7,000円台)だった」、
・ペットの殺害での損害賠償額は欧米は驚くほど低い〜アメリカ、
・ドイツ連邦裁判所(終審)では犬の交通事故死での慰謝料を「論外」として棄却した、
・「物の毀損とペットの死」は近親者の死亡とは厳格に区別され慰謝料はありえない〜ドイツ高裁判決、
の続きです。
渋谷寛弁護士は「日本は法的な感性は欧米に比べてそうとう遅れていて、ペットを何らかの事情により殺された場合の飼い主の慰謝料については裁判上も認められていますが認容額は極めて低い」と述べています(明治大学法曹界 会報(平成14年5月30日発行)に掲載 ペット法学会に参加して 弁護士 渋 谷 寛)。つまり「欧米ではペットを殺された場合は日本よりはるかに高い慰謝料が認容されている」です。しかしそれは真逆の大嘘です。ドイツ、オーストリアではペットの死による慰謝料の請求は終審判決で棄却されています。また物損での賠償額は極めて低いのです。
愛誤弁護士、渋谷寛氏のサマリーでも述べた問題のある資料の記述ですが、以下に引用します。明治大学法曹界 会報(平成14年5月30日発行)に掲載 ペット法学会に参加して 弁護士 渋 谷 寛
ペットに関する我が国の法的な感性は欧米に比べてそうとう遅れていうるといえましょう。
ドイツ民法典(BGB)第九〇条a1文には「動物は物ではない。」(1990年改正、2文・3文省略)。物と動物の違いに着目しているのです。
日本では動物はあくまでも(不動産以外の有体物なので)物の中の動産に分類されます(民法第85条・86条参照)。
しかし、生命をやどしているか、痛みを感じることができるか否か、この違いを無視すべきではないと思います。
今後我が国においても動物の法律上の地位を可及的に人間と同等に向上させるべきであると考えています。
ペットを何らかの事情により殺された場合の飼い主の精神的苦痛即ち慰謝料については、裁判上も認められていますが、認容額は極めて低く数万円にしかならないことが多いようです。
今年の3月28日、宇都宮地裁第1民事部(合議)において、飼いネコを獣医の避妊手術のミスで死亡させられた事例で、ネコの価格賠償50万円、買い主の慰謝料20万円、その他解剖費・弁護士費用等も含めて合計93万円あまりの賠償を命じる判決が出て新聞にも掲載されました。
ペットの死亡事故の賠償慰謝料額も時代の変化を反映して増加しつあるように思えます。
動物が命を絶たれることなく怪我をしたにとどまった場合はどうでしょうか。
動物の精神的苦痛それ自体を損害と考え動物自身の慰謝料を認めることができるのではないかと考えています。
渋谷寛弁護士は、「日本は法的な感性は欧米に比べてそうとう遅れていて、ペットを何らかの事情により殺された場合の飼い主の慰謝料については裁判上も認められていますが、認容額は極めて低い」と述べています。つまり「欧米ではペットの死亡での飼主の慰謝料は日本と比べてはるかに高額が認容されている」という意味になります。
しかしそれは真逆の大嘘です。私はこの連載でオーストリア最高裁がペットの過失死での慰謝料を棄却し、ドイツでは民法でペットの死での慰謝料請求を認めていないことを書きました。ドイツでも連邦裁判所(日本の最高裁判所に相当)で、犬の死による慰謝料請求が棄却されています。またアメリカ合衆国ではほとんどの州でペットの死による損害はあくまでも物損で時価評価し、慰謝料を認めていないことも述べました。故意悪意によりペットを殺害されても、慰謝料が棄却された州最高裁判決もあります。
さらにペットの死での経済的損失でも、欧米は日本と比べれば認容額は驚くほど低いのです。今回はドイツ、オーストリア、スイスにおける、ペットの死での損害賠償請求の司法判断を取り上げます。もちろんこれらの判決では慰謝料は認められていません。以下に、具体的な判決を挙げます。
(ドイツ)
・BGH, Urteil vom 20.03.2012 - VI ZR 114/11 「ドイツ連邦裁判所(終審 日本の最高裁判所に相当する)判決 事件番号VI ZR 114/11 2012年3月20日言渡し)」 判決文原文全文
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原告は飼犬をリード無しで無舗装路を歩かせていた。農業用トラクターがその犬を轢いて重症を負わせ、その後犬は安楽死させなければならなくなりました。犬の飼主原告は、犬が死んだことによる物損と慰謝料併せて1万ユーロを求めて被告トラクターの運転手を訴えました。原審では原告の請求は慰謝料は全て棄却され、物損の損害額775.99ユーロは認容されました。しかし控訴審では原告と被告の過失割合がそれぞれ50%とし、被告に犬の物的損害として388ユーロ(約5万円)を原告に支払うように命じました。原告の慰謝料請求は再び棄却されました。連邦裁判所はその控訴審判決を支持するとしました。
・Jäger erschießt versehentlich Hund bei Jagd: Urteil zu Schadensersatz 「ハンターは狩猟中に誤って犬を射殺した:損害賠償の判決」 2021年5月11日
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ハンターが他のハンターの猟犬を誤って射殺した損害賠償を求める裁判での判決では、犬の物損の賠償額は1,290ユーロ(16万円台 1ユーロ=128円)でした。20ヶ月齢の犬の価値は500ユーロ、訓練費が790ユーロと裁判所は認定しました。猟犬という使役犬としての訓練を受けていなければ物損額は更に低くなると思われます。
・15 Jahre alter Rassekater gestorben Amtsgericht Köln weist Klage gegen Tierarzt ab 「15歳のオスの猫が死亡しましたが、ケルン地方裁判所は獣医に対する損害賠償訴訟で原告の請求を棄却しました」 2017年3月31日
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15歳の血統書付きのオス猫の飼主は猫の異変により獣医師にその猫を受診させました。しかし治療を行っても猫は死にました。猫の飼主は自分の費用で猫の病理解剖を行ったところ、猫には心臓疾患がありました。原告猫の飼主は、猫の治療を行った獣医師に対して「心臓の疾患に気がついていれば命は助かった」とし、500ユーロ(約6万4,000円)の損害賠償をを求める訴訟を提起しました。1審判決は、原告の請求を棄却しました。
(スイス)
・Kein Schmerzensgeld für die tote Katze 「死んだ猫に対する痛みや苦しみへの慰謝料の補償はありません」 2020年10月4日
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スイスで原告の猫の飼主らは、飼猫の治療をベルン州大学獣医学部付属診療所で受けたところ、猫は死にました。飼主らはベルン州に対して猫は医療過誤により死んだと主張し、無駄な治療費847.8スイスフラン(約10万円 1スイスフラン=120円)と、猫が死んだことによる精神的苦痛(慰謝料)9,000スイスフラン(約108万円)を求める行政訴訟を提起しました。1審裁判所は、いずれも原告らの請求を棄却しました。
ドイツ、オーストリア、スイスの犬猫等のペットの殺害での損害賠償の裁判例を探しても、ほとんどありません。まずドイツですが、ドイツ連邦裁判所(終審 日本の最高裁判所に相当する)での慰謝料が棄却される判決が確定しており、物損でも著しく認定された損害額が低いためと思われます。
例えばドイツですが、犬の死亡での損害額の認定は日本円に換算すれば10万円前後です。それは「損害が生じた時点での市場価格」で厳格に評価されるためと思われます。例えば血統書付きの犬であっても減価償却がありますし、雑種や保護動物で入手価格が低ければその価格が基準になるということです。ですから訴訟を提起しても費用倒れになり、メリットがないということでしょう。それはスイス、オーストリアでも言えることです。またこれらの3国では、いずれもペットの死での慰謝料請求は棄却されています(ドイツ、オーストリアでは終審で)。
対して日本では欧米とは異なり、司法判断でペットの死での慰謝料がかなり高額で認められています。またペットの物損の認定ですが減価償却費などを考慮せず、公正とは思えません。ですから損害賠償の総額は欧米(アメリカ、ドイツ、スイス)に比較すれば著しく高額です。以下に例を上げます。
・宇都宮地裁 猫の不妊手術の過誤による死亡
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5歳の雌猫の不妊手術での獣医師の医療過誤による損害賠償を求める裁判。総額で93万円の損害賠償が認容されたました。慰謝料が認められた他にも、5歳の猫の減価償却が適正に評価されていません、国際的にはありえない極めて偏った判決です。
・ペットの医療過誤認める 獣医師側に59万円支払い命令 2018年6月29日
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8歳の犬が獣医師の医療過誤で死に、飼主が獣医師を相手取って損害賠償を求めて裁判を提起しました。慰謝料40万円等などが認められ、総額で約59万円の損害賠償が認容されました。私が知る限り、欧米では獣医師の医療過誤によるペットの死で、慰謝料が認容された判決はありません。まさに日本は世界に例を見ない、お犬様お猫様国家です。
(動画)
Polizei erschießt Hund 「警察官は犬を射殺した」 2018年5月30日公開
ミュンヘン駅前で、制御不能になった大型犬を飼主の目前で射殺するドイツの警察官。ドイツの警察官が年間に犬などを射殺する数は1万5,000頭を超えます(犬以外の動物、たまに猫や、高速道路上でシカが迷い込んだために射殺したというニュースもありますが、警察官の活動範囲は市中や高速道路ですので多くが犬と思われます)。しかし警察官に犬を射殺されたことにより損害賠償を求めた裁判は見つかっていません(農場内の牛ではあります)。
ドイツでは民法で特別法の規定があれば動物の所有権を制限しているため補償を求めるのは極めて難しいためと思われます。また犬等のペットの物損の評価が著しく低いことも理由であると思います。
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