ドイツ動物愛護の光と「影」ー1
ドイツの動物愛護政策は、日本の動物愛護(誤)活動家によって半ば神格化されています。しかし日本では一面だけを曲解極大解釈し、歪曲されて紹介されていることは否定できません。ドイツ動物愛護政策の成立の歴史的背景や、ある面においては大変ドイツが動物に対して苛烈で残酷な面を持っていることを紹介します。
動物愛護という見地からは、大変評価が高いドイツの動物保護法(Tierschutzgesetz)及びその周辺法規は、多くがナチス政権下で制定されました。動物保護法(Tierschutzgesetz)1933年、連邦狩猟法(Jagdgesetz)1934年などです。
とくに動物保護法(Tierschutzgesetz)は、現在にいたるまで大きな改正はなく、当時としては画期的な動物保護を定めた法律でした。今日でも、原則動物(温血脊椎動物)を殺すときに、獣医師による麻酔薬安楽死を、罰則付きで義務つけている法律は本法だけだと思います。
総統ヒトラーが大の犬好きであったことも理由でしょう。しかし多くの歴史家は、ナチス政権下での極端な動物保護政策は、ドイツ国民を、異論を排除する全体主義(ファシズム)に誘導することが目的であったと指摘しています。それをエコファシズム(Ecofascism)と称します。
ウィキペディアエコファシズムから引用します。
エコファシズムは、環境保護や動物愛護などを理由に、異論を排除して全体主義的な政策を推進し、権威主義や人権抑圧などを正当化しようとするイデオロギーの一種である。
ナチス政権下のドイツでは一方で、豚などの動物を忌み嫌い、捕虜やユダヤ人に対しては動物以下の扱いが行われた。
これは人間と動物の境界を曖昧にすることによって、人間に対する殺人のハードルを動物のレベルにまで下げることになったためとの解釈が行われている。
日本人の研究者も、極端な動物保護と全体主義の親和性を指摘し、危険であるとしています。大阪教育大学准教授、西村貴祐氏(ドイツ法・環境法。1999年 ケルン大学法学部留学 2008年から大阪教育大学教育学部准教授)の論文を引用します。ナチスドイツの動物保護法と自然保護法
「動物保護法」は、当時の水準からすれば極めて進歩的な法律であった。
意図は、動物保護を促進させることよりも、むしろ広範な社会層の支持を取り込むことにあった。
こうした立法事例は、動物保護と全体主義思想との関連について再検討する必要がある。
西村貴祐准教授は、「動物保護が多くの大衆を政権に惹きつける手段であり、現代においても動物というテーマは人々を引きつけ結束させる。しかもその結束は反自由主義的な方向に向かいがちで、現在ではその傾向が顕著である」と述べています。
「動物愛護」「動物でも命は大切です」。この一見優しげな主張に真っ向からは反論しにくいのは確かです。しかし総論では正しいとしても、各論では、動物は殺さなくてはならなりません。オブラートに包んだ、実は裏では恐ろしい、異質なものは暴力をもってしてでも排除すべしという全体主義が潜んでいるのです。
ナチス政権下で成立した動物保護法(Tierschutzgesetz)と連邦狩猟法(Jagdgesetz)ですが、全体主義的な一面を挙げておきましょう。動物保護法においては、今でも先進的な動物の保護規定がされています。しかしその対象となる動物は「人に飼育されているもの」のみです。対して連邦狩猟法23条では、人に飼育されていない犬猫に対しては、ハンターに対して積極的に駆除するように求めています。
諸外国では、野良犬猫を狩猟対象としている国がほとんど(我が国でも鳥獣保護法狩猟適正化法では野犬野猫は狩猟対象です)ですが、野犬野猫を「狩猟許可した鳥獣の一種」という位置づけです。しかしドイツ連邦狩猟法では、わざわざ独立した条文を設け、ハンターに積極的に駆除するように求めています。条文では、野良犬猫が野生動物を「密猟(wildernden )するもの」であり、その排除は野生動物の保護のためであるとしています。
ドイツ連邦狩猟法Bundesjagdgesetz
§ 23 Inhalt des Jagdschutzes
Der Jagdschutz umfaßt nach näherer Bestimmung durch die Länder den Schutz des Wildes insbesondere vor Wilderern, Futternot, Wildseuchen, vor wildernden Hunden und Katzen sowie die Sorge für die Einhaltung der zum Schutz des Wildes und der Jagd erlassenen Vorschriften.
事実、ドイツにおける野良犬猫の狩猟駆除は大変苛烈で、高位推定で年間46万5千頭もの野良犬猫が銃殺などにより狩猟駆除されています。動物保護法(Tierschutzgesetz)などで飼い犬猫が手厚く保護されているのと比べて大変対照的です。なお、動物保護法の規定では、連邦狩猟法が優先されるとしています。
人に飼育されている犬猫と、飼育者がない野良犬猫との扱いのギャップの大きさは、私は全体主義(ファシズム)に通じるところがあると感じます。
「従うものにはとことん大事にして手厚く。反するもの異質なものに対しては冷酷に徹底して排除」。これはファシズムそのものです。まさにナチスのユダヤ人排除そのものです。
動物愛護は一見すれば優しいと思われがちですが、歴史的に全体主義に誘導する手段として用いられた恐ろしい面があるのです。現代においても、その傾向は否定できません。
またドイツの動物愛護政策ですが、日本ではあまりにも一部を歪曲され曲解されています。歴史的背景や、すべての動物に対して優しいのではない、言わば「影」の部分にも理解していただきたいと思います。
- 関連記事