続・アメリカ合衆国では犬の早期去勢が見直されつつある

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(summary)
In the United States, gonadectomy is common.
The recent publication of several studies examining the effect of gonadectomy on future health has challenged long-held assumptions and recommendations for gonadectomy in companion animals.
記事、アメリカ合衆国では犬の早期去勢が見直されつつある、の続きです。
アメリカ合衆国では、犬猫の早期の不妊去勢が推進されてきました。背後には、アメリカ合衆国では毎年数百万もの犬猫が殺処分されていた事実があります。殺処分を減らすために無計画で無用な犬猫の繁殖を防止することが早期去勢の目的です。事実、早期の犬猫の去勢を義務付けて以降は、アメリカ合衆国では劇的に犬猫の殺処分数は減少しました。しかし今日アメリカ合衆国では、早期の犬の去勢に関して健康上の悪影響を指摘する研究が相次いで発表され、早期去勢の見直し機運があります。
サマリーで示した通り、アメリカ合衆国では犬猫の早期の不妊去勢を強く推進してきました。しかし近年では早期の去勢に対する犬への健康の悪影響を指摘する論文が相次いで公表されています。そのために、早期の特に犬の去勢の見直しを提唱する獣医師がいます。
日本の獣医療はアメリカ合衆国の影響が大きく、その方針を踏襲しているといえます。ですから犬猫の早期去勢が強く推進されています。基本的には私は犬猫の去勢は必須であり、賛成する立場です。しかし情報は過不足なく、正確に伝えなければなりません。なお「ドイツなどヨーロッパでは犬猫の去勢が大変進んでいる」との情報は正しくはありません。
なお私は犬猫の去勢には賛成の立場です。殺処分を減らすためには無用な繁殖を防ぐことが必要であり、去勢は効果が最も高いからです。しかし情報を正しく伝えることが重要だと考えています。
今回は前回記事に続いて、アメリカ合衆国における犬の去勢のリスクについての獣医師による動画を取り上げます。こちらの動画で出演している獣医師のカレン・ベッカー博士は、アイオワ州立大学を卒業した方です。13歳の時から動物保護施設でボランティア活動をはじめ、17歳の時に動物の安楽死認定技術者になりました。獣医師になり診療活動を続けるうちに、去勢、特に早期の去勢による悪影響の発現を多く見ることにより、そのリスク啓発のために本動画を製作しました。
若干古い動画ですが、アメリカ合衆国ではかなり以前から犬の早期の去勢に関してのリスクについて指摘する獣医師がいました。しかしベッカー博士も、犬の去勢には完全に反対する立場ではなく、「アニマルシェルターから犬猫を求める飼主は無責任かもしれず、そのような飼主より無計画な繁殖を去勢は防止する効果がある。したがってアニマルシェルターが去勢後の犬猫を譲渡することはやむを得ない」と述べています。
以下がその動画です。概略を日本語訳しています。今回は長文になりますので原文(英語)を文章に起こしていませんが、ご了承ください。
(動画)
Dr. Becker: The Truth About Spaying and Neutering 「ベッカー博士 不妊と去勢手術に関する真実」 2013年9月13日
私が診療した、早期去勢されたフェレットの90%が内分泌疾患で死にました。副腎疾患とクッシング症で、多数の去勢されたフェレットが死にました。フェレットの早期の去勢手術は、尿失禁と性ホルモンの欠乏症を引き起こします。犬でも同様の症状が起きます。
2006年のことですが、私の診療所では甲状腺機能低下症と診断された犬が最も多くなりました。私の患者の犬は、甲状腺ホルモン異常を治療しても、健康になって元気を回復したとは言えませんでした。
テネシー大学の犬の副腎研究室のジャック・オリバー氏も、犬の副腎疾患は去勢により一定割合発生するとし、副腎疾患は性ホルモンの不均衡(去勢)が原因と結論付けています。当時はアメリカでは生後6か月以内の犬の去勢が推奨されていました。2006年から2010年の間に、私はうっかりして多くの動物を(去勢により)病気にしてしまった。私は獣医師として失格です。だから私は変わりました。今では「ペットを(安易に)去勢しないでください」と警告しています。私は元野良の雌犬を養子にしましたが、去勢するつもりはありません。
アメリカのアニマルシェルターはごく若い動物を去勢していますが、私がこのビデオを作ることによりその慣習を変えることができるでしょうか。卵巣を除去しない(卵管を結索する)不妊手術を、もし私がアニマルシェルターの獣医であったならば、正常なホルモン分泌のためにそれを推進するでしょう。とはいえ私はアニマルシェルターの去勢には、必ずしも反対はしません。無責任な飼主がいるからです。アニマルシェルターは、犬を譲渡したのちまで飼主には関与できませんので、無責任な飼主が無計画に繁殖させてしまう可能性があるからです。
臓器は相互に関連しています。だから生殖器を取り除くことは、健康への影響をもたらします。性ホルモンを分泌する組織をすべて除去する去勢手術は、子宮蓄膿症とBDHのリスクを下げる効果があることは有意にあるかもしれません。
しかし早期の去勢は、クッシング症の発症を促します。性ホルモンは去勢手術を受けた時点では、まだ十分には発達していないからです。従来の去勢手術(生殖器の器官をすべて切除する)では、副腎に性ホルモンを産出させる可能性があります。それにより副腎は負担が増えます。それがクッシング症の発症の原因となるのです。
イギリスの研究では、心臓の疾患は雌犬では(雄犬ではわずかですが)去勢された犬ではそうでない犬より率が高かったです。去勢犬は無去勢犬より優位に有病率が高いです。去勢犬は前立せんがんの抑制するとされていますが、ミシガン州立大学では無関係とされました。早期の去勢は犬の背を高くし、異常な骨の成長パターンをもたらし関節疾患の原因となります。成長ホルモンを性ホルモンが抑制することがないからです。
テキサス州立大学の研究では、去勢犬の頭蓋骨の異常が未去勢犬より高かったです。コーネル大学の研究では、関節異常は去勢犬は未去勢犬より発症率が高かったです。カリフォルニア大学デービス校の研究では、リンパ腫と血管腫瘍の発症率が去勢犬ではそうでない犬より高かったです。一般に去勢犬は雄雌とも尿失禁の発症が高くなります。甲状腺機能の低下は24か月例未満の去勢では顕著です。
カナダでは、雌犬の去勢は卵管結束(卵巣温存術)などの低侵襲の去勢手術が普及しています。ヨーロッパでは、犬の去勢はそれほど熱心ではありません。しかしアメリカではペット(犬猫)の過剰人口の抑制方法としては、今のところ去勢が唯一の選択肢です。
私がその後の、主にアメリカ合衆国での犬猫の去勢に関する論文を調べたところ、近年ではおおむね次のことが言われています。
1、去勢による悪影響は大型犬で顕著で、猫と小型犬では影響はほぼない。
2、早期の去勢(6ヶ月以内)は悪影響が出やすい。
3、去勢によるプラス面はある。
です。
私の推測ですが、猫と小型犬は成長が早いので悪影響が出にくいのだと思います。アメリカ合衆国では、かつては一律に6ヶ月以内の早期去勢が推奨されてきました。小型犬は6ヶ月例程度で成長が止まり、最初の発情が始まるものもあります。猫も大型の品種の例外はありますが、おおむね6ヶ月齢で雄雌とも生殖が可能となることが多いです。対して大型犬では、最初の発情が生後2年近くかかる品種もあります。
繰り返しますが、私は基本的には犬猫の去勢には賛成です。無用な繁殖を防ぐことにより、殺処分数を減らす効果が最も高いからです。殺処分を減らすためにはやむを得ない処置だと思いいます。しかし「一律に早期に去勢することが良い」、「去勢は特定の疾患予防になる」という情報は乱暴だと感じます。去勢にも特に早期のy個性はリスクもあり、犬猫、犬でも大型犬と小型犬によっても差があることなどは、新しい知見をもとに、過不足なく情報提供することが重要と思います。そのうえで飼主さんが去勢に対するリスクに対処していただければよいと思います。
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