イギリス(イングランド)の「ペットショップでの犬猫6か月未満販売禁止」は動物福祉の改善は限定的

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(summary)
The Government has introduced landmark new legislation to tackle the low-welfare, high volume supply of puppies and kittens, by banning their commercial third-party sale in England.
記事、
・イギリスの「ペットショップでの犬猫6か月未満販売禁止」は動物福祉にかなうのか?~改正法の原文と解説、
・イギリス(イングランド)の「ペットショップでの6か月未満の犬猫原則販売禁止」改正法は「大山鳴動して鼠一匹」、
の続きです。
イングランド(*1)では、「原則ペットショップでの6か月未満の犬猫の販売禁止」法案が可決成立し、2010年4月6日から施行されました(イギリス全土では現在本法令の効力が及ぶのは、イギリスを構成する4か国のうち大ロンドン市を除くイングランドのみです)。しかし10年来大騒ぎして成立させた改正法は、労力の割に効果は低いと言わざるを得ません。イギリスには本改正法以前からペットショップでの犬猫を販売する店舗が少ないからです(のべで10%台。300店舗余り)。イギリスでの犬の取得はインターネットでの非対面による購入比率が高く、さらに無認可のブリーダーの比率が高いのです。小規模ブリーダーは認可の必要がなく、犬の非対面のインターネット販売が合法です。これらの小規模ブリーダーは行政の検査がなく、虐待飼育もあり得ます。また悪質な大規模ブリーダーが、個人の名義を借りて無認可ブリーダーとしてインターネットでの非対面販売を行うケースもあります。
(*1)
日本で「イギリス」と称される国は正式名称を、グレートブリテン及び北アイルランド連合王国(United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland: 略称UK The uk)といます。イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4か国からなる連合国家です。イングランド議会で可決成立した法案であっても、他の3ヵ国とイングランド内の大ロンドン市は高度な自治が認められており、それぞれの議会が可決しなければその法律は効力を有しません。また否決することも修正することも認められています。
・イギリス
・英国法
イギリスでは認可が必要なブリーダーの規模基準が段階的に引き下げられてはいますが、日本の「年2頭以上もしくは2回以上の販売」で第一種の認可が必要」という基準と比べればかなり緩いです。例えばスコットランドはイングランドと比べて農業畜産の比率が高く、子犬の営利生産のイギリス国内の供給地とされています。また大規模パピーファームが多く存在します。
そのスコットランドですが、犬のブリーダーの認可が必要なのは年5回以上の繁殖を行うものです。したがって年4回までの繁殖であれば法的規制を受けません。多産な犬は1回の出産で10頭近くの子犬を生むこともあり、年40頭となればかなりの数です。イギリスでは2018年から非対面でのインターネット販売などでの犬の販売を禁じましたが、その規定は認可が必要ないブリーダーには適用されません。
実はイギリスは犬ブリーダーは圧倒的に、無認可の小規模ブリーダーが多いのです。これらのブリーダーは行政の検査等の監視下にありませんので、むしろ虐待飼育が見逃されることもあります。また認可が必要な規模のブリーダーが検査を逃れるためと、インターネット販売のために個人の名義を利用して、非対面での子犬販売を行うこともあります。さらに、「子犬販売」を名目にしたインターネット詐欺、つまり子犬の購入を注文して代金を支払ったにもかかわらず子犬が届かないということも起きています。
ですから「ペットショップでの子犬子猫販売の規制を強化する」ことは、イギリスでは犬猫の福祉向上の効果は極めて限定的と言えます。まず、イギリスでは極めて無登録の(小規模で登録対象外)犬ブリーダーが多いことを裏付ける資料から引用します。この資料では、イギリスでの犬ブリーダーでは行政の登録を受けたものが、全英ケネルクラブの登録を受けた数の18%にしかすぎないことが述べられています。さらに血統書を付けなければケネルクラブへの登録は必要ありません。ケネルクラブへの無登録の犬ブリーダーの数を足せば、無認可犬ブリーダーの比率はさらに高くなります。インターネットで販売されている激安子犬は、かなりの比率で血統書がついていませんので。
「イギリスにおいては犬ブリーダーの登録率が極めて低い(多くても18%)」ということが述べられている、イギリス(The uk)の、Department for Environment, Food & Rural Affairs 「環境・食糧・農村地域省」が2017年に作成した資料があります。
The review of animal establishments licensing in England Next steps February 2017 「イングランド(England)の動物に係る事業所におけるライセンスの見直し 次のステップ 2017年2月」 から引用します。
This document provides a summary of the next steps in the review of animal establishment licensing in England.
Estimates show that there are approximately 2,300 licensed pet shops, 650 licensed dog breeders, 1,800 licensed riding establishments, and 6,300 licensed animal boarding establishments in England.
in 2015 the Kennel Club registered 4,443 dog breeders in the UK that had two litters per annum.
推定によると、イングランド(England)には約2,300のライセンス(註 license とあるが実際は認可)を受けたペットショップ、650のドッグブリーダー、1,800の乗馬施設、6,300のペット預り業があります。
2015年に全英ケネルクラブは、イギリス(英国 UK United Kingdom)では、年間2回の同腹仔の繁殖をしている4,443事業者の犬のブリーダーを登録しました。
現在イギリスでは、法律で登録を要する犬ブリーダーの規模基準を現在次のように定めています(What are the laws about puppy breeding and what should I do if I’m concerned about the breeder?)。
・イングランド 年3回以上の繁殖
・ウェールズ 年3回以上の繁殖
・スコットランド 年5回以上の繁殖
・北アイルランド 年3回以上の繁殖
イギリス(The uk)では、スコットランドでは年4回までの繁殖、その他の地域では年2回まで全く法規制を受けません。それが「イギリス全土では認可を受けた犬ブリーダーは660であり、ケネルクラブに登録した犬ブリーダーは4,443」の理由です。
ケネルクラブに登録した犬ブリーダーに対する行政から認可を受けた犬ブリーダーの数に占める割合は、18%にしかすぎません。さらに「血統書がいらない」のであれば、ケネルクラブへの登録も必要ありません。事実、インターネットで非対面販売されている激安子犬の多くは純血種であるとはしても、血統書がない子犬がかなりあります。ですから行政から認可を受けた犬ブリーダーの割合は、18%よりもさらに低くなります。
このような大多数の無認可(認可を免除されているので無認可は違法ではない)犬ブリーダーが占めるイギリスにおいては、法規制を受けないブリーダーがインターネットの販売サイトに多くの子犬を出品しています。そしてイギリスでは、インターネットによる犬の入手割合が大変高いのです。この点については、しばしば全英ケネルクラブが懸念を表明しています。イギリス、スコットランド政府は2019年に「スコットランドでは新規の犬の購入者のうちの45%がインターネット販売により購入した」という調査報告書を出しています。かつて全英ケネルクラブは「全英での犬の入手シェアは30%~40%である」との報告書も出しています。
「イギリスでは犬の入手に占めるインタ―ネットでの購入割合が大変高いのです。無認可犬ブリーダーは行政の検査の対象ではなく法規制も受けませんので、むしろ認可を受ける規模のブリーダーやペットショップの方が監視下にあり、虐待的飼育の発見と摘発がたやすいのです。認可を要大規模のパピーファーム(イギリスのパピーミルの言い方)であっても、個人の名義を借りてオンラインで子犬を違法に非対面販売することも行われています。
(参考資料)
・New drive to curb online puppy sales Published: 13 Nov 2019 09:30 「オンライン子犬の販売を抑制するための新たな取り組み
公開日:2019年11月13日09:30」 イギリス、スコットランド政府文書
People in Scotland are increasingly buying puppies online despite the risk of purchasing from illegal breeders, according to new research.
Almost half (45%) of people who bought a puppy in 2019 did so online, up from a quarter (25%) the previous year.
Puppy farms breed misery, and that misery is being fuelled by the huge demand for puppies and facilitated through online adverts and sellers.
Research on online puppy sales was undertaken by the Kennel Club.
新しい調査によるとイギリス、スコットランドの人々は違法なブリーダーからの購入はリスクがあるにもかかわらず、子犬をオンライン購入することがますます増えています。
2019年には子犬を購入した人のほぼ半数(45%)がオンラインで購入し、前年の四半期(25%)から増加しました。
パピーファームは酷い状況で子犬生産を行い、そのひどさは子犬への大きな需要に支えられています。
そしてそれは、オンライン広告やオンラインでの販売者を通じて促進されています。
オンラインでの子犬の販売に関する調査は、全英ケネルクラブによって行われました。
(画像)
・Dogs & Puppies For Sale & Rehome in UK
イギリスの犬の販売サイト。2020年7月23日にスクリーンショットを取得したものです。ほぼすべての広告にブリーダーの認可番号が明示されていません。これは「個人の認可不要の規模の趣味ブリーダー」という名目で出品しています。動物保護団体の調査などでは、大規模ブリーダーの名義貸しなども確認されています(註 スクリーンショットの画面のブリーダーが名義貸しということではありません)。

もともとイギリスでは、法律で規制されている動物の取扱業者は氷山の一角にすぎません。「ペットショップでの半年未満の犬猫の仕入販売を禁止する」通称「ルーシー法」ですが、私は前回記事で、本法の適用を受けるペットショップは最大でもイギリスのペットショップの全体数に占める割合は1割余り、数にして300店舗余りということを述べました。規制を受けない業者による、インターネットでの子犬販売の方が、規制を受ける実店舗でのペットショップでの販売よりはるかに多いのです。比率が低いペットショップでの犬猫販売をことさらたたいたところで、犬猫の福祉向上に資するとは思えません。
さらに事実上ペットショップでの犬猫販売ができなくなってからは、インターネットでの子犬販売が「激増」しています。つまりペットショップに生産していた子犬を卸していたパピーファーム(=パピーミル)が、失った販路をその分、個人の名義を借りて「認可がいらない小規模趣味ブリーダー」として偽装してインターネットでの違法販売をしている可能性があります。「趣味ブリーダー」が短期間に急激に増えることはありませんので。
つまり「自治体の認可を受け検査対象になるペットショップ」から、「虐待的な扱いが目に見えない」、無認可の趣味ブリーダーという形式をとることにより、子犬子猫の虐待的飼育はむしろ水面下に隠蔽される結果となった可能性があります。通称「ルーシー法」は、「ペットショップで販売される犬の90%が劣悪飼育のパピーファーム由来である」ことから、ペットショップを規制強化してパピーファームをなくすことが目的でした。しかしむしろ犬猫の虐待的飼育は隠蔽されることにより、より深刻化していく可能性すらあります。
この点については、50年以上子犬の販売を続けてきたイギリスの最大手子犬販売専業のペットショップチェーンが意見表明しています。それは次回記事で取り上げます。確かにペットショップでのガラスケージでの子犬子猫販売は目に見えます。あからさまに目に見えることさえなくせば、衆愚有権者の人気を得やすいということはあるでしょう。
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