「動物保護に反する立法は無効」というドイツ基本法(憲法)の悶絶講釈~環境省のデタラメ資料⑬

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(Zusammenfassung)
Grundgesetz Artikel 20a
Allerdings ist Artikel 20a nicht wie andere Bestimmungen des Grundgesetz vor dem Verfassungsgericht einklagbar.
環境省が2017年に公表した、ドイツに関する資料、平成 29 年度 訪独調査結果 平成 29 年 5 月 30 日 特定非営利活動法人アナイス (以下、「本資料」と記述する)、があります。本資料は全編にわたり嘘、誤りがびっしりと詰め込まれた、まさに見るに耐え難い資料です。本資料においては、「ドイツは基本法(憲法)改正により動物保護が保持できるような法律でないと立法してはならず、実験動物の保護とペットの『人の所有物』という観点から解放されるようになった」という記述があります。しかしこの講釈はデタラメです。
サマリーで示した、環境省が2017年に公表した、ドイツに関する資料、平成 29 年度 訪独調査結果 平成 29 年 5 月 30 日 特定非営利活動法人アナイス (以下、「本資料」と記述する)の、問題記述を引用します。
憲法にあたる基本法において、動物保護の規定が追加された。
その条文が付け加えられてから、動物保護が保持できるような法律でないと立法してはならないこととなった(*1)。
基本法の改正により、ドイツでは、動物実験の際にも、動物保護の観点が加えられることになったし(*2)、ペット動物についても、人の単なる所有物という観点から解放されることとなった(*3)。(18ページ)
上記の記述の、「ドイツ基本法(註 「ドイツ憲法」とも訳される)の動物保護に関する改正」は、2002年に改正された、20条a(Der Staat schützt auch in Verantwortung für die künftigen Generationen die natürlichen Lebensgrundlagen und die Tiere im Rahmen der verfassungsmäßigen Ordnung durch die Gesetzgebung und nach Maßgabe von Gesetz und Recht durch die vollziehende Gewalt und die Rechtsprechung. 「国家はまた次世代に対する責任において、天然資源と(und)動物を憲法秩序の枠組みの中で立法を通じて、法律および行政権と司法により保護(schützt )する(拙訳。ドイツ憲法は複数の日本語訳があります)と思われます。環境省の本資料の、上記の記述の意味するところは次のようになります。
*1 ドイツ基本法の本規定(動物保護)は強制力があり、そのような法律は基本法違反(違憲)として無効と提訴できる。
*2 ドイツ基本法で動物実験の規定が加えられ、ドイツにおいて実験動物の保護の立法が行われたのはこれが初めてである。
*3 ドイツ基本法では、ペット動物について(ペット動物に限り)所有物という観点から解放する規定が盛り込まれた。
結論から先に述べれば、環境省の本資料における上記の記述は、すべて誤りです。正しくは次の通りです。
*1 ドイツ基本法20条aの規定は、学説では強制力がなく(抽象的かつ理念を述べたに過ぎないため)、本規定を根拠に、憲法裁判所に提訴することができないとされています。ですから動物保護に反する立法も可能です。
*2 ドイツ基本法では、動物実験及び実験動物に関する規定はありません。一切言及がありません。さらに実験動物保護に関する立法は古くは1933年のライヒ動物法ですでにあり、現在は動物保護法7条(施行1972年)などで規定されています。
*3 ドイツ基本法においては、ペット動物の所有権に関する規定は一切ありません。ドイツ基本法20条aの動物保護に関する改正は2002年ですが、それより以前の1990年にドイツ民法90条aにおいて、ドイツの動物の所有権を制限する規定が盛り込まれました。しかもペット動物に限らず、動物全般に関してです。
*1、*2、*3、がすべて誤りであることを、順に説明します。まず、*1、の、「ドイツ基本法の本規定(動物保護)は強制力があり、そのような法律は基本法違反(違憲)として無効と提訴できる」です。多くの学説では、ドイツ基本法(ドイツ憲法)20条aの動物保護に関する規定は抽象的で理念を述べたものにすぎず、この規定をもって憲法裁判所に提訴することはできない。つまり動物保護に反する立法も可能である」とされており、それが定説です。
それを裏付ける資料、sungsgeschichte Das Grundgesetz wurde schon erstaunlich oft geändert 「ドイツ憲法の歴史 ドイツ基本法(ドイツ憲法)は驚くほど頻繁に改正されてきました」 2019年5月21日 から引用します。
Das neue Staatsziel wurde 1994 ins Grundgesetz aufgenommen und acht Jahre später um die drei Wörter „und die Tiere“ für das Tierschutzgebot erweitert.
Allerdings ist Artikel 20a nicht wie andere Bestimmungen des Grundgesetz vor dem Verfassungsgericht einklagbar und gehört auch nicht zur unveränderlichen Ordnung des Grundgesetzes.
新しい国の目標は1994年に基本法(ドイツ憲法)に組み込まれ、8年後には、動物保護に関する規定が3つの単語「und die Tier(と 動物)」を含むように拡大されました。
しかしドイツ基本法(ドイツ憲法)の他の規定と同様に、20a条を根拠とした訴訟は憲法裁判所に提訴することができず、本規定はドイツ基本法(ドイツ憲法)の不変な命令(強制力を持つ規定)の1つではありません。
つまり、ドイツ基本法で規定されている動物保護に関する規定は絶対的ではないということです。国民の生命財産の保護、畜産の合理化、生態系保全などの目的のためには、それが動物保護に反したとしても、動物保護よりも相対的に優先度が高ければ動物保護に反する立法が直ちに基本法違反(違憲)になるのではありません。ですからそのような法律の規定が、ドイツ基本法20条aの改正により、基本法違反(違憲)となり、その規定が無効となるわけではありません。さらに、ドイツ基本法20条aを根拠とする、憲法裁判所への提訴はできないとされています。
例えばドイツでは多くの州で禁止犬種を定める法令があり、一定の条件に満たない、もしくは無許可で飼育されている特定の犬種は、州が押収して強制的に殺処分する権限があるとしています。例えばヘッセン州ですが、特定の犬種の飼育を原則禁止する法令、Gefahrenabwehrverordnung über das Halten und Führen von Hunden (HundeVO) 「犬の飼育及び指導に関する危険防止規則」(以下、「ヘッセン州 本規則」と記述する)が施行した2000年から2003年にかけて、特定の犬種(闘犬種もしくはその雑種)という理由だけで、456頭の犬を飼い主から押収して強制的に殺処分しています(Newsletter von Maulkorbzwang und den Dogangels)。ドイツ基本法(ドイツ憲法)20条aの改正で動物保護が盛り込まれたのは2002年ですが、ヘッセン州の本法令は現在ももちろん有効で、無許可飼育の禁止犬種を州が押収して強制的に殺処分する権限があり、現に現在も行われています。環境省の本資料の記述、「憲法にあたる基本法において、動物保護の規定が追加された。その条文が付け加えられてから、動物保護が保持できるような法律でないと立法してはならないこととなった」が正しいとすれば、ヘッセン州の本規則はドイツ基本法に違反するとして無効になるはずです。「特定の犬種という理由で強制的に殺処分する」のは、明らかに動物保護に反するからです。
そもそも「動物保護が保持できるような法律でないと立法してはならない」などという規定が強制力を持つと言ことは、あり得ません。環境省の本資料の作成者もしくは通訳はよほど語学の能力が低い、かつ知能が低く、勝手な思い込み、妄想で作文したのは間違いないです。先に述べましたが、国民の生命財産を守るため、畜産の合理化、環境保全など、動物保護と相反することは多くあります。「動物保護」に対してこれらの保護法益が優先されれば、動物保護に反する立法も基本法に反すること(違憲)にはならないのです。少し考えれば、誤りにすく気が付く事柄を見逃して本資料の公開をした環境省の職員の能力も絶望的に低い。わざわざ学説を持ち出すまでもないです。
ヘッセン州の禁止犬種に関する規則を先に例示しましたが、「動物保護が保持できない」、それに反する法令はドイツには多数ありますし、基本法(憲法)改正後の立法も行われています。狩猟法は「動物保護が保持できない」法律の最たるものです。またドイツ動物保護法(Tierschutzgesetz)の、ドイツ基本法(ドイツ憲法)20条a改正の2002年以降には、「害獣駆除、狩猟における動物の殺害は必ずしも苦痛軽減義務はない」と、動物保護の保持に反する法改正が行われています。
(参考資料)
・Anpassung des Bundesnaturschutzgesetzes 「ドイツ連邦自然保護法の改正」 2020年2月14日 ドイツ連邦共和国プレスリリース
~
ドイツ連邦自然保護法改正により、畜産被害が生じた場合のオオカミの殺害要件が緩和されました。本法においてはかねてより、オオカミと犬の雑種は自然界においても違法な人工下での繁殖個体(註 オオカミと犬の交配は禁じられている)においても、例外なく殺害しなければならないとされています。オオカミの殺害は畜産業の保護とという保護法益が動物保護を上回り、犬とオオカミの雑種の殺害は、生態系保全という保護法益が動物保護という保護法益を上回るからです。
「動物保護が保持できるような法律でないと立法してはならない」などと公的な文書で書けてしまう環境省の担当者と、この文書を承認した環境省の担当者は知能が正常ではないでしょう。しかるべき機関で診断を受けることをお勧めします。
(画像)
ドイツ人の個人ブログ、Alles was war 「全ては一体なんだったのか」。2013年。画像は、ドイツでの行政による犬の殺処分命令書です。この犬は、噛みぐせがありました。犬の鑑定をした行政獣医師が、「この犬は安楽死させなければならない」と記述しています。出典は、ドイツ、ニーダーザクセン州の犬の飼い主が行政により強制殺処分の命令を受け、飼い犬が安楽死させられたことを取り上げたサイトです。このブログでは、この犬の飼い主のみならず、他にも多くの犬が行政命令で強制的に殺処分されたことが述べられています。
2013年ですから、ドイツ基本法(ドイツ憲法)の動物保護を盛り込んだ20条aの改正があった2002年の11年後の記事です。「動物保護が保持できるような法律でないと立法してはならない」という、環境省の本資料の記述はあり得ません。国民の安全財産を守るなどの理由があれば、動物保護の保持に反する立法も当然基本法(憲法)に反することになりません。相対的に、保護法益の価値が高ければ、動物保護の保持より優先されます。こんなこと少し考えればわかります。環境省の本資料の作成者は知能が正常に満たないのは間違いない。

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