ロサンゼルス上級裁判所は、ロサンゼルス市にTNR制度の停止を命じたー3
ロサンゼルス市のTNR、地域猫制度の停止を求めた裁判で、原告らは完全勝訴しました。その背景には、ロサンゼルス市が一部の野良猫愛護(誤)団体の要望のみを聞き入れ、議会で承認を得るという、民主主義に沿った手続きを行わなかったことがあると思います。しかし日本の公的な不妊去勢助成、地域猫制度は現在(2012年度)全てが議会承認が必要な条例ではなく、首長の言わば独断で制定できる要綱、要領を根拠としています。
まず用語の解説をします。
・要綱及び要領
~
職員が事務処理を進めていく上での指針・基準を定める行政機関の内部規律。
行政指導を行うための一般的な基準。
罰則規定を設けられない。
議会の議決を必要としない。
・条例
~
地方公共団体が自治立法権に基づいて制定する法の一形式。
罰則規定を設けられる。
原則議会の議決を要する。
米国では、TNRと、TNRされた野良猫の一群を管理する(Feral Cat Colony Management)、いわゆる地域猫の公的制度がある自治体はごくわずかです。ニュージャージー州(2012年に廃止表明)、ボルチモア市、バーリントン郡、ビバリーヒルズ、ウッドランド、タベーナックル、シャモン、サウザンプトン、スプリングフィールド、マウントハリー の街区のみです(2011年。現在では若干増えているかもしれません)。
TNR、地域猫の公的制度を持つ自治体は、アメリカではごくまれです。愛誤の主張、「欧米では野良猫コントロールはTNR、地域猫がスタンダードで殺処分は行わない」は大嘘です。私は何度も、日本は実質的には世界的に猫犬の殺処分数が少ない国であることを述べています。
ニュージャージー州は例外で、いずれも小規模な郡、限られた街区内を対象としています。そして根拠は議会決議を得た条例(Ordinance)であり、制定前には公聴会なども開かれています。TNRrealitycheck「TNRの真実」。
対して日本の不妊去勢手術の自治体による助成制度、地域猫の制度化は、いずれも要綱・要領を根拠としています。議会決議を経た条例とするものは一つもありません。
また、所有者不明猫(野良猫)に対する不妊去勢手術費用の助成制度がある自治体は、日本では110以上(平成22年度調べ)あります。日本ほど不妊去勢手術費用の助成、地域猫を制度化している自治体が多い国はまれです。その上、議会決議を要する条例ではなく、首長の言わば独断で導入できる要綱・要領を根拠とし、成立のためのハードルは低いのです。野良猫愛誤団体がネットテロを自治体に仕掛け、首長が嫌気がさして要求を飲む、というケースもあるかもしれません。日本ほど、野良猫愛護(誤)が優遇された、野良猫天国な動物愛護(誤?)先進国はまれです。
日本は、アメリカほど訴訟社会ではありません。また行政訴訟の勝訴率は1割程度とされています。ですから日本では、民意に反した野良猫不妊去勢手術助成や地域猫制度であっても、一旦制度化されてしまえば廃止は大変難しいです。
私は、不妊去勢手術の助成と地域猫の制度化は、議会決議を要する条例がふさわしいと思います。地域猫が届出通りに活動しないケースは多くあります。まず個体管理を要する地域猫制度であっても、届け出た個体管理されている猫以外に給餌をしていない団体は皆無でしょう。その他、指定した活動場所以外にまで餌やりを広げるなどです。
その為の罰則規定は必要ですから条例がふさわしいのです。私は地域猫は、認可地域猫以外での餌やりを罰則規定で禁じる条例と一体化するべきだと思います。また、民意に反してまで不妊去勢手術の助成と地域猫を制度化するべきではありません。
米国ロサンゼルス市のTNR地域猫制度は、正当なプロセスを経ないで導入したことにより市民の反発を招き、裁判所の心証も害したのだと私は推測します(それを言えば日本の不妊去勢手術助成、地域猫は全て正当なプロセスを得ていません)。
その為に、ロサンゼルス市では、未来永劫にわたり、TNR、地域猫制度は導入できなくなりました。
ロサンゼルス市のTNR、地域猫制度の停止を求める裁判では、原告は根拠となる法律をCalifornia Environmental Quality Act「カリフォルニア州環境保全法」としています。制度の成立過程の違法性を主張するだけでもTNR、地域猫制度は廃止することは可能です。しかし原告らはあえて「TNR、地域猫制度の前に環境影響調査を行え。それを行わないのであれば停止せよ」と訴えました。
なぜならば、「TNR、地域猫制度の前に環境影響調査を行わなければならない」という判決を得れば、未来永劫ロサンゼルス市は同制度を導入できなくなるからです。
環境影響調査は、日本でも環境影響法などに基づく「環境アセスメント」があります。環境に影響を及ぼす事業は、事前に環境影響調査を行い、公聴会などを行い、広く市民に知らしめ意見を求めなければならないとされています。
この環境影響調査は、大変コストがかかります。大学などに研究調査を委託し、多くの調査員を動員するからです。公聴会を何度も開催しなければなりません。
例えばわが西宮市では、不妊去勢手術費用の助成予算は年間50万円です。地域猫の広報費もわずかだと思います。もし、地域猫の環境影響調査で、野生生物に対する調査、水道水源地の汚染リスク調査、人畜感染症拡散リスク調査など行えば、千万単位の予算が必要です。地域猫の50万円の事業の可否を調査するための数千万円の予算は、100%議会で承認されません。
ロサンゼルスでも事情は同じでしょう。「TNR、地域猫制度を再開するのであれば、環境影響調査が必要である」という確定判決を得れば、未来永劫にTNR、地域猫を公的制度としてロサンゼルス市は導入できなくなります。なぜならば、「TNR、地域猫を公的制度化する」条例案が議会で可決されたとしても、その導入前の環境影響調査の、高額な予算が可決されるはずがないからです。
アメリカの腕っこきの弁護士の手腕には、感心することが多いです。事実、ロサンゼルス市では、TNR、地域猫制度を再開できていません。
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