ロサンゼルス上級裁判所は、ロサンゼルス市にTNR制度の停止を命じたー2
米国ロサンゼルス市のTNR制度の廃止を求めて環境保護、野生動物保護団体のグループが2008年に提起した裁判では、2009年に原告の完全勝利となりました。ロサンゼルス市は、その後TNR制度の再開はしていません。原告勝訴の背景にについて考察を行いました。
前回記事、ロサンゼルス上級裁判所は、ロサンゼルス市にTNR制度の停止を命じたー1の続きです。
本件裁判では、原告側が資料を公表しています。Superior Court Orders City of Los Angeles To Stop Controversial FeralCat Program Pending Environmental Review「ロサンゼルス上級裁判所は、ロサンゼルス市に対して環境調査を終えるまで野良猫TNRの停止を命じた」。以下に原告らの主張を引用します。
Our goal was to see that the City follows the California Environmental Quality Act by thoroughly assessing the program's impacts on the environment .
Feral cats have a range of impacts to wildlife, human health, and water quality in our cities.
TNR should be discussed in an open, public process before any such program is implemented.
Even when fed by humans, cats instinctively hunt prey, including birds, lizards and small mammals.
Colonies of feral cats, often thriving with the aid of handouts from humans, harm native wildlife and contaminate water bodies with fecal bacteria.
Scientific research shows that 70–90% of cats must be sterilized for cat populations to decline.
This is virtually impossible to achieve in practice.
Must undergo objective scientific review as part.
This will ensure that the public has adequate opportunity to comment and that significant impacts on parks, wildlife,water quality, and human health are avoided.
我々の目的は、ロサンゼルス市が徹底的に、TNRプログラムの環境への影響を評価することによって、カリフォルニア州環境保全法(the California Environmental Quality Act Quality を品質と訳せば不自然になるので「保全」と訳しました)に従うことを確認することでした。
野良猫という野生動物による悪影響の範囲は、都市生活者の健康や水道水の品質にまで及びます。
実施する前に、TNRプログラムは公共の場で議論され、その過程が公開されるべきです。
人によって給餌されていても、猫は本能的に、鳥、トカゲや小型哺乳類などの獲物を狩ります。
多くの場合野良猫の群れは、人の援助により盛んに増えて、野生生物に害を与えるとともに糞便のバクテリアで水道水源地を汚染します。
科学研究によれば、猫の集団が減少するためには、猫の70-90%は不妊去勢しなければならないことが明らかになっています。
これは実現が不可能です。
(TNRプログラムは)科学的で客観的な評価を行わなければなりません。
そうすることにより、市民がコメントをするのに十分な機会を確保し、公園、野生生物、水質、人間の健康への悪影響が回避されることが、かなり確実になります。
ロサンゼルス上級裁判所は、原告らの主張「野良猫TNR(地域猫)制度は、環境に悪影響を与える可能性が極めて高い。そのために導入前には科学的な環境調査と評価を行い、広く一般市民の意見を聞くべきである。それを怠ったロサンゼルス市は、TNR(地域猫)制度を停止すべきである」を全面的に認め、ロサンゼルス市にTNR(地域猫)制度の停止を命令しました。
原告らがTNR(地域猫制度)の停止を求めた根拠は、カリフォルニア州環境保全法California Environmental Quality Act Qualityです。この法律は、環境に影響を与えるおそれのある事業については(民間公共問わず)、事前に環境調査とそれに基づく評価を行わなければならないと定めています。
日本にも同様の法律、条例があります。環境影響評価法(通称「環境アセスメント法」) 、環境影響評価条例です。環境影響評価法 ウィキぺディア
本法での適用は、かなり大規模な工事を想定しており、野良猫のTNR(地域猫)に適用するには無理があるように思われます。カリフォルニア州環境保全法においては、日本の環境影響評価法に比較すれば、農地、環境全般、埋め立てなども法の対象としておりその適用範囲は広いものの、日本人の私としては、野良猫のTNR(地域猫)制度に適用するにはコジツケで、大げさに感じます。
しかしロサンゼルス上級裁判所は、原告の主張を全面的に認めました。
その理由として、私はロサンゼルス市はTNR(地域猫)制度を導入する際に、議会の承認を得ず、非公開で決定した事が背景にあると思います。
TNR(地域猫)が及ぼす、人の生活環境や野生動物に対する悪影響はかなりのものです。それにもかかわらず、ロサンゼルス市が一部の野良猫愛護(誤)団体の意向のみを取り入れて、一般市民の民意を反映させることなく(議会承認を得ず)導入した事実は、裁判所に対して悪い心証をももたらしたのではないでしょうか。
日本の野良猫愛護(誤)団体は、「欧米では、野良猫数のコントロールはTNRが主であり、殺処分は行わない」と誤った情報を垂れながしています。私は猫犬の事実上の殺処分数は、欧米に比べて日本は極めて少ないことを何度も述べています。
また米国で、TNR(地域猫)を制度化している自治体は例外です。10程度の小規模な市、一部の街区に限るものが大半です(例外はニュージャージー州ですが、2012年にTNR制度の廃止を表明し、野良猫数のコントロールは狩猟駆除に移行するとしています)。制度化するに際しても、事前に公聴会を開催し、議会の承認を経た条例(Ordinance)です。
対して日本の公的地域猫制度および野良猫の不妊去勢手術助成は、全てが(2013年1月時点)議会承認を必要としない、首長の言わば独断で制定できる要綱・要領を根拠としています。また所有者不明猫の不妊去勢手術を助成する自治体数では110を超え(平成22年)、大変多いのです(続く)。
- 関連記事