動物愛護管理法は動物を保護することが目的ではない~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか

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(Domestic/inländisch)
記事、
・日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか~杉本彩氏の動物虐待の厳罰化主張に対する疑問、
・アメリカ、カリフォルニア州では私有地内に侵入する犬猫の毒餌による駆除は合法~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・アメリカ、カリフォルニア州では動物虐待の法定刑は懲役1年以下または2万ドル以下の罰金もしくはその併科~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・イギリスの動物虐待罪の法定刑は、357日以下の懲役または2万ポンド以下の罰金、もしくは併科~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・イギリスと日本の動物虐待に対する処罰の比較~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・動物福祉に先進的なオーストリアの動物虐待の法定刑は懲役2年以下~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・人の占有下にない犬猫は、狩猟駆除が推奨されているオーストリア~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・スイスで猫をハンマーで撲殺し写真を公開した男の処罰は罰金240スイスフラン(2万7,600円)~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・スイスの動物虐待罪に対する平均の処罰はわずか300スイスフランの罰金~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・犬猫の殺害に寛容なドイツ~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・続・犬猫の殺害に寛容なドイツ~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・ドイツの司法判断は犬猫の殺害に寛容~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・続・ドイツの司法判断は犬猫の殺害に寛容~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか、
・動物虐待の法定刑が5年以下の国の考察~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか(インド編)、
・動物虐待の法定刑が7年以下の国の考察~日本は動物虐待に対する処罰が甘いのか(オーストラリア編)、
の続きです。
これらの記事では、杉本彩氏らが「日本は外国と比べて動物虐待に対する処罰が甘い。動物愛護管理法における動物虐待罪の法定刑の上限を、懲役5年以下、罰金500万円以下に引き上げるべきである」と主張していることを書きました。杉本彩氏らは「今の動物愛護法では動物を守れない」としています。しかし動物愛護管理法の目的は、動物の保護ではありません。
「今の動物愛護管理法では動物を虐待から守れない。処罰が外国と比べて軽すぎる。守ることができる動物愛護法にするため厳罰化(懲役5年以下または罰金500万円以下に引き上げるべき」と、杉本彩氏らが求めています。例えば杉本彩氏のこのようなブログ記事などです。「動愛法の厳罰化とアニマルポリス設置」署名の再開! 2018年6月21日
しかし動物愛護管理法の目的は、動物を虐待から守ることではありません。杉本彩氏らは、前提として動物愛護管理法を理解していません。では、動物愛護管理法の目的は何でしょうか。動物愛護管理法の目的、つまり保護法益(法令がある特定の行為を規制することによって保護、実現しようとしている利益)について考察します。
動物愛護管理法の保護法益について、弁護士による見解を取り上げた記事があります。どんなに酷い動物虐待でも「初犯は執行猶予」の現実…「厳罰化」に向けたハードルとは 2018年7月16日(弁護士ドットコム)から引用します。
(動物愛護管理法の)「保護法益」をとらえなおす必要がある。
元税理士の事件をめぐっては、島弁護士によると、厳罰化にはハードルがあるという。
その一つが「保護法益」(ある特定の行為を規制することによって保護される利益のこと)だ。
「何を守るか」によって、その罰則は「どの程度であるべきか」が決まってくる。
動物愛護法の目的は、(1)国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資すること、(2)動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害を防止すること――とされている。
この目的から、動物虐待の保護法益は「動物の生命・身体の安全」そのものではない。
一般的に、保護法益は「動物の愛護管理の良俗」と考えられている。
厳罰化にあたっては、この保護法益をとらえなおす必要が出てくるという。
つまり、動物愛護管理法の保護法益は「動物の生命・身体の安全」そのものではなく、国民の「良俗」なのです。動物愛護管理法第1条では、「国民の間に動物を愛護する気風を招来し、生命尊重、友愛及び平和の情操の涵養に資する」と記述されています。その他に、同法第1条では、本法の目的として「動物の管理に関する事項を定めて動物による人の生命、身体及び財産に対する侵害並びに生活環境の保全上の支障を防止」とあります。
動物愛護管理法の保護法益は、「1、動物を愛護することによる国民の情操を涵養すること」と、「2、動物を管理することにより被害を防止すること」の二つです。つまり、動物愛護管理法の保護法益は「国民の良俗」であることを鑑みれば、例えば「財産犯」などと比べれば法理論上厳罰化は難しいであろう、というのが島弁護士の見解です。なお、このように動物愛護管理法の保護法益は「動物を愛護することによる国民の情操の涵養」と「動物の管理による被害の防止」の両面があります。ですから「動物愛護法」と略するのは正しくありません。
仮に動物愛護管理法の保護法益を見直し、「動物の生命・身体の安全」としたらどうなのでしょうか。アメリカ合衆国は、動物虐待に対する犯罪は州法での規定です。多くの州では、Animal cruelty law 「動物虐待法」という法律名であり、保護法益は「動物の虐待を防止することによる、動物の生命・身体の安全」と解釈できます。しかし、多くの州の動物虐待に対する法定刑は、自由刑では懲役1年以下としています。「国民の良俗」を保護法益とした日本の動物愛護管理法の方が、法定刑が重いのです。
杉本彩氏は、2017年9月「改正動物愛護管理法を考えるシンポジウム」 2017年9月 においてこのように述べています。「米オレゴン州 最高裁が、飼い主が扱う(または酷使する)動物を単なる所有物(器物)ではなく、それ以上の者としてみなす。ひどい扱いを受けた動物は法的な”被害者”とみなされ、虐待から守られるべき対象となる(この文章は意味不明ですが「オレゴン州の事件に対してのアメリカ合衆国連邦最高裁判所の判決」と理解します)。
この最高裁判決も、「アメリカ合衆国の動物虐待法の目的は動物の生命・身体の安全」、であり、さらに一歩踏み込んで「人と動物との共生」にまで踏み込んだ司法判断と言えます。
しかしオレゴン州の Animal cruelty law 「動物虐待法」の法定刑の自由刑は、懲役1年以下で日本より寛容なのです(OREGON ANIMAL CRUELTY LAWS 「オレゴン州 動物虐待法」)。なお、杉本彩氏はバカの一つ覚えのようにアメリカの動物虐待犯罪に対する判決を取り上げますが、刑事司法制度が異なる国とは比較するのは無意味です。さらにこの判決では、「飼い主が扱う動物」とあり、杉本彩氏が「このような事件(野良猫の殺害)の再発のために動物愛護管理法の厳罰化が必要」としている、野良猫(無主物)が対象ではありません。アメリカでは複数の州(ワイオミング州など)で、ほぼ無制限に野良猫(とみなされる非占有猫も含む)の狩猟による殺害が合法だからです。
ドイツの連邦動物保護法(Tierschutzgesetz)の保護法益は、第1条で「動物と人は同朋である des Menschen für das Tier als Mitgeschöpf」と示された通り、保護法益は「人と動物との共生」です。しかし同法の自由刑の法定刑は懲役3年以下で、日本の動物愛護管理法と比べて著しく厳しいとは言えません。それ以前に、人の占有下にない飼い犬猫や無主物の犬猫(野良犬猫)は同法の適用ではありません。これらは狩猟法の適用となり、通年狩猟駆除が合法です。さらに狩猟法では、これらの犬猫の殺害においては殺害前の意識喪失や苦痛軽減義務すらありません。
ですから杉本彩氏らが、「日本の動物愛護管理法は外国に比べて甘い。厳罰化せよ」との主張の根拠を、「野良猫の殺害に対する日本の執行猶予付判決」とするのは無知で滑稽です。オーストリア、スイスの動物保護法も、ドイツの動物保護法と同様の規定があります。
動物虐待の法定刑の上限が自由刑で5年以上の国は、インドとオーストラリアがあります。インドでは、刑法で動物虐待の自由刑の法定刑を懲役5年以下としています。しかし一部の動物を抜いて、経的無価値の動物(無主物)は法の適用外です。ですから経済的無価値の犬猫(野良犬猫)は、虐待殺害しても処罰する根拠がありません。インドの動物虐待に対する法定刑は大変厳しいといえますが、保護法益としては、財産犯罪の抑制としての意味があります。
オーストラリアのいくつかの州は、動物虐待に対する自由刑の法定刑の上限は5年以下から7年以下と定めています。保護法益は「動物虐待を禁じる」とし、「動物の生命・身体の安全」と言えます。しかし非占有の飼い犬猫や、無主物(野良)の犬猫は対象外で、狩猟駆除が合法で推奨されています。またオーストラリアでの動物虐待に対する処罰は、私が見た限りすべてが牛、ヒツジ、馬、家禽と言った家畜です。オーストラリアの動物虐待法の保護法益は、「畜産動物を守ることによる畜産業の健全性を確保する」ことも含まれるのかもしれません。
インド、オーストラリアの動物虐待に対する法律の保護法益においても、杉本彩氏らが「日本の動物虐待に対する処罰は外国に比べて甘い」との主張の根拠に、日本の野良猫の殺害で執行猶予が付ついた懲役の判決挙げていることは矛盾します。
弁護士ドットコムの記事での、島弁護士の発言、「動物愛護管理法の保護法益は国民の良俗であって、動物の生命・身体の安全ではない」との意見は正しいといえます。しかし「動物愛護管理法の保護法益を『動物と共生』という面から見直す」ことにより、厳罰化することが正しいのでしょうか。繰り返しますが、ドイツの動物保護法では、「動物は人の同朋」と第1条で明記し、「人と動物の共生」を保護法益としています。しかし、無主物や人の占有下にない犬猫の狩猟による殺傷は合法です。さらに法定刑は日本の動物愛護管理法と比較して著しく厳しいとは言えません。
また「動物の生命・身体の安全」を保護法益としているオーストラリアの州法では、無主物(野良)の犬猫は法律の適用外です。同じく「動物の生命・身体の安全」を保護法益としているアメリカ合衆国の各州の動物虐待法は、法定刑は日本より寛容です。また、財産被害を防止するためであれば、私有地内に侵入する犬猫などの殺害は、アメリカ合衆国の多くの州では合法です。ドイツのように、猫の狩猟駆除をほぼ無制限(通年など)に合法としているウィスコンシン州などもあります。
動物虐待が、懲役5年以下(杉本彩氏らが求めている動物愛護管理法の厳罰化と同じ)と、日本よりはるかに厳しいインドの動物虐待に対する処罰は、経済的無価値(無主物、野良)の犬猫などは適用ではありません。保護法益が「財産権の侵害の防止」という面があるからです。
杉本彩氏が「このような事件の再発を防ぐために動物愛護管理法を厳罰化するべき」としている、日本の野良猫の殺害での執行猶予付き判決の事件は、海外ではむしろ処罰されないのです。杉本彩氏らがこの事件を根拠に、「動物愛護管理法の罰則は海外と比べて甘い。懲役5年以下、または罰金500万円以下に引き上げるべき」との主張は失当です。
また、島弁護士の、「動物愛護管理法の保護法益を見直すことにより厳罰化が可能になる」との見解も、私は外国の法律と比較すれば正しいとは思いません。動物愛護管理法の処罰を懲役5年以下、罰金500万円以下」に引き上げることが妥当なのでしょうか。仮に、杉本彩氏らが主張するように、「野良猫(無主物)の殺害を防止するために動物愛護管理法を厳罰化する」としたら、むしろ国際的には特異な法体系になると思います。国際的には、野良(無主物)の犬猫や、非占有犬猫の殺害は人の占有下にある動物とは区別し、一定の条件で合法としたり、処罰規定がないからです。杉本彩氏らの、「野良猫(無主物)の殺害で執行猶予が付いた日本の事件をもって「日本は海外に比べて動物虐待の処罰が甘い。厳罰化せよ」との主張は、実に滑稽です。
(動画)
No charges against Sanford man who shot neighbor’s dog 「近所の飼い犬を射殺したサンフォードの男性は、刑事訴追を受けません」 2016/05/12 に公開 CBS17 (CBSテレビニュース)
私有地内に侵入した近隣の飼い犬を射殺した男性は、刑事訴追を受けませんでした。アメリカの各州では、私有地内の財産被害を防止するためであれば、私有地に侵入する犬猫を殺害することが合法だからです。杉本彩氏らは、ことさらアメリカの動物虐待の判決を取り上げますが、刑事司法制度が異なる国の判決は一概に比べられません。偏った情報のみを偏向して拡散するのは、もはや言論テロです。同様のケースでは、日本では動物愛護管理法でほぼ有罪になると思います。
A Sanford man will not face charges after he shot a neighbor’s dog that was attacking chickens on his property.
サンフォードの男性は、自己所有地内で、鶏を襲った近隣の犬を射殺しましたが、刑事訴追を受けることはありません。
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