地域猫活動家は損害賠償責任を負うのか~地域猫の管理責任を問う


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Domestic/Inländisch
記事、
・動物愛護管理法の犬猫引取り制限は改悪だったのか~猫被害の増大をもたらした、
・地域猫活動で野良猫は減少するのか~地域猫の管理責任を問う、
・続・地域猫活動で野良猫は減少するのか~地域猫の管理責任を問う、
・「犬猫の殺処分を行う必要がある」が国民の大多数の意見~地域猫の管理責任を問う、
の続きです。
野良猫の餌やり行為により、被害が生じたとして餌やり行為者に対する損害賠償を求める複数の民事訴訟が日本で提起されました。いずれも、餌やり行為により被害を受けた原告が勝訴しています。また、原告一人あたりに対する賠償額も上昇傾向にあります。では、行政が認めた地域猫で同様のことが起きればどうなるのでしょうか。結論から言えば、私は、1学説上、2法律上、3判例上、行政が認めた地域猫活動においても被害が生じれば状況によっては、活動家らは損害賠償責任を負うと解釈します。
記事、動物愛護管理法の犬猫引取り制限は改悪だったのか~猫被害の増大をもたらした、で取り上げたことですが、平成25年(2013年)に環境省は、人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト、を策定しています。その内容は、「犬猫の殺処分を減らす~なくす(殺処分ゼロ)を目標とする」ということです。2014年の動物愛護管理法の改正は、それに沿ったものと言えます。さらに飼い主のいない猫対策としては、環境省は、人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト、において、事実上「地域猫活動」を推奨しています。つまり環境省は、「殺処分をなくすこと。そのために飼い主のいない猫の対策は地域猫活動を行う」ことを方針として掲げました。
それ以前に環境省は平成22年に、住 宅 密 集 地 に お け る 犬 猫 の 適 正 飼 養 ガ イ ド ラ イ ンにより、地域猫活動の定義を示しています。地域猫活動の定義を「地域住民と飼い主のいない猫との共生をめざし、不妊去勢手術を行ったり、新しい飼い主を探して飼い猫にしていくことで、将来的に飼い主のいない猫をなくしていくことを目的とする。地域住民が飼育管理する」とし、「地域ぐるみの活動」を強調しています。そして地域猫の管理責任、つまり地域猫活動に伴う被害が発生した場合などの管理責任については意図的なのか、全く言及していません。
では、地域猫活動により飼育管理している猫が被害を及ぼした場合は、地域猫活動家の法的責任はどうなるのでしょうか。サマリーで述べた通り、近年ではいくつもの野良猫の餌やりによる被害を受けた人が、損害賠償を餌やり行為者に求める民事訴訟が提起されました。いずれも報道された事件では、猫被害者の原告が勝訴し、原告一人あたりへの賠償額は上昇気味です。一方、地域猫活動においては、猫への給餌を行うことが前提です。
まず、野良猫に餌やりをしてその野良猫が被害を及ぼし、それにより給餌者が損害賠償責任を負う法的根拠について述べます。それは、民法709条にもとづく「一般不法行為責任」、もしくは民法718条に基づく「動物の管理者による特殊不法行為責任」です。
・民法第709条に基づく「一般不法行為」
~
第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
・民法第718条 「動物の占有者に対する特殊不法行為」
~
第718条
動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。
占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。
解説
動物占有者、及び動物管理者とみなされた者については、上記の要件に基づき不法行為責任を負うことがある。
「民法709条に基づく一般不法行為」と、「民法718条に基づく、動物占有者の特殊不法行為」の違いは、被害者(原告)の立証責任にあります。一般不法行為の成立要件は民法709条の条文にあるとおり、加害者(被告)の「故意、または過失がある」行為により、他人に損害を与えることですが、それとその「因果関係」があることです。一般不法行為においては、被害者(原告)が加害者(被告)に対して損害賠償を請求する場合は、加害者(原告)は加害者(被告)の行為に、「故意、または過失」があったことを証明しなければなりません。
対して、「民法718条に基づく、動物占有者の特殊不法行為」は、客観的にその動物から被害を受けていることを被害者(原告)が立証すれば足ります。加害者(被告)の、「故意、または過失」を証明する責任はありません。
つまり、「民法709条に基づく一般不法行為」より、「民法718条に基づく、動物占有者の特殊不法行為」の方が、被害者(原告)にとっては訴訟において有利になります。加害者(被告)の「故意、または過失」を証明するのは大変なことだからです。
「野良猫に餌をやっていることで糞尿による衛生被害などを被った」ケースでの、被害者(原告)が餌やり行為者に対して損害賠償を求めた裁判例ですが、「民法709条に基づく一般不法行為」、「民法718条に基づく、動物占有者の特殊不法行為」のいずれも認められた判決があります。違いは、餌やり行為者=加害者(被告)が、どの程度野良猫に関わっていたかの差です。単に野良猫に給餌していた場合は、裁判所は、「民法709条に基づく一般不法行為」を援用し、餌やり行為者=加害者(被告)の不法行為責任を認め、野良猫被害者=被害者(原告)へ、損害賠償の支払いを命じました。つまり、「野良猫に餌をやる」ことと、近隣の猫被害には因果関係があると認めています。
一方、加害者(被告)が野良猫に対して高度な管理行為、つまり不妊去勢手術をする、猫の譲渡先を探していた、などを行っていた裁判例では、裁判所は餌やり行為者=加害者(被告)の行為は「飼育の域」と認定し、「民法718条に基づく、動物占有者の特殊不法行為」としました。その裁判においても、もちろん餌やり行為者=加害者(被告)に、猫被害者=被害者(原告)に損害賠償の支払いを命じる判決が確定しています。
実例として、「民法709条に基づく一般不法行為」による、餌やり行為者=加害者(被告)に、猫被害者=被害者(原告)に、損害賠償の支払い命じた判決文を引用します。この裁判の判決においては、平成20年に、野良猫に餌やりを行う被告に対して、猫の糞尿などの被害を受けた原告に、55万 8100円の損害賠償の支払いなどを命じました。この裁判は、被告女性が2013年5月頃から少なくとも同年12月頃まで、自宅玄関前に餌を置くなどして複数の野良猫に餌やりを継続し、近隣に猫による被害を及ぼしたというものです。判決では、「餌やりの中止や屋内飼育を行うべきだった」とし、「近隣住民への配慮を怠り、生活環境を害した」と結論付け、被害者原告に55万8,100円の損害賠償を命じました。
平成20年7月11日判決言渡 福岡地方裁判所第6民事部 福岡野良猫餌やり被害損害賠償請求事件。判決文原文から引用します。
主文
1 被告は,原告に対し, 55万 8100円及びこれに対する平成 26年7月 21 日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は,これを3分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
事実及び理由
本件は,原告が,隣接地に居住する被告に対 し,被告が被告宅又はその庭において野良猫に寝床や餌を用意するな どの飼育ないし餌付けを行って原告宅を含む周辺に猫を居着かせ,行政機関の指導にも従わずに飼育ないし餌付けを継続し,他人の土地,建物を損傷し,又は糞尿等で汚損することのないよう家庭動物の飼育等を行うべき義務に違反して,原告宅の庭を猫の糞尿等により汚損した不法行為により,原告に159万 8600円の損害を与えたとして,不法行為による損害賠償請求権に基づき159万8600円及びこれに対する不法行為後の日である平成 26年7月21日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
・当裁判所の判断
野良猫が同一の場所に居着くのは,餌に困らない環境が整っているからであると考えられる。
被告が平成26年1月に本件野良猫に対する餌やりを中止したところ,その後,同 年3月初旬頃には本件野良猫が目撃されなくなっていることによっても裏付けられているというべきである。
・被告の行為(餌やり)の不法行為該当性及び糞尿被害との因果関係について
被告は,平成25年5月頃から,同年1 2月頃まで,本件野良猫に対し,継続的に餌やりをしていたと認められる。
餌やりによって野良猫が居着いた場合,その野良猫が糞尿等により近隣に迷惑や不快感その他の権利利益の侵害をもたらすことがある以上,そのような迷惑が生じることがないよう配慮することは当然に求められるというべきである。
餌やりをすれば本件野良猫が居着くことになることや,その結果として近隣に迷惑を及ぼすことは十分に認識し得たはずであるうえに,被告は,原告を含む近隣住民に配慮し,糞尿被害等を生じさせることがないよう,餌やりを中止し,あるいは,本件野良猫について屋内飼育を行うなどの措置をとるべきであったということができる。
被告は,以降も本件野良猫に対する餌やりを継続していたと認められ,また,原告宅の庭においては実際に糞尿被害が発生しており,この糞尿被害は本件野良猫によって発生したと認められるのであって,被告の行為は, 原告その他の近隣住民への配慮を怠り,本件野良猫の糞尿等により原告の権利利益を侵害した不法行為というべきである。
野良猫への餌やりは野良猫の生活に適した環境を整え,居着かせることにつながる行為である。
・結 論
原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき, 55万8100円及びこれに対する不法行為後の日である平成 26年7月21日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
上記の判決文においては、「餌やり行為は、野良猫をいつかせ、近隣に被害を生じさせる」とし、被告の餌やり行為が、近隣への猫被害との因果関係を認めています。さらに、野良猫に餌をやる行為は、それが近隣に被害を及ぼすことが容易に予測できるとしています。
それにもかかわらず、餌やり行為を継続し、または給餌している野良猫を室内飼いに移行しないのは、被告である、餌やり行為者の故意過失です。それを裁判所が認めたものと言えます。
概ね、他の野良猫餌やり裁判においても、裁判所は同様の判断を示しています。この事件においては、「庭に糞尿される」という、「臭い汚い」といった環境被害で、賠償額も50万円台と低い金額です。しかし野良猫の餌やりにより野良猫を居着かせ、例えば重大な感染症がもたらされ、それが原因が死亡者が出たとすればどうなるでしょうか。賠償額は億単位になる可能性すらあります。野良猫の餌やりと被害発生の因果関係と故意過失を司法が認めているわけですから、当然この判決は、野良猫が原因の感染症の感染にも準用でると考えられます。
現在日本で感染が拡大しているSFTSという、マダニがベクターとなる感染症があります。SFTSは、猫がばらまいたマダニからも、猫からも感染します。ウイルスの遺伝の型を調べることにより、原因となったウイルスが猫が運んだものかどうかを証明することができます。したがって、野良猫が運んだマダニにより、SFTSに人が感染したことを証明することができる、すなわち、野良猫の餌やり行為と感染との因果関係が証明できるのです。
例えば、このようなことが地域猫活動で起きたのならば、地域猫活動家は損害賠償責任を負うのでしょうか。仮に行政が認可した地域猫であってとしても、私は、地域猫活動家らの損害賠償責任は生じうると理解します。
「地域猫は野良猫を減らす目的である」、「そのために不妊去勢をしている」ことは、不法行為の成立の妨げにはならないと私は考えます。実際に、「地域猫活動により猫が減った」としてでもです。なぜならば、「地域猫的活動と認められる」と裁判所が判断した野良猫の餌やり被害での損害賠償請求裁判において、裁判所は餌やり行為者に損害賠償の支払いを命じているからです。むしろ、「不妊去勢」などの高度な猫に対する管理を行うことにより、「動物の占有者」としてみなされ、より厳しい責任が生じると考えられます。
(参考資料)
・野良猫への餌付けで55万円の賠償命令?ネット上では、賛否の声が相次いでる
(動画)
野良猫餌やりで55万支払い命令!隣家の庭汚す!2015/09/26 に公開。
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