「埠頭駅定食」を私有地に配置すれば有罪になるのかー6
前回記事、「埠頭駅定食」を私有地に配置すれば有罪になるのかー5の続きです。記事、「埠頭駅定食」を私有地に設置すれば有罪になるのかー3~5においては、放し飼い猫が私有地内に設置した、いわゆる「定食」を食べて死傷した場合、器物損壊罪が成立するか否かについて論じました。本記事ではそのまとめを行います。
「埠頭駅定食」を私有地に配置すれば有罪になるのかー3
「埠頭駅定食」を私有地に配置すれば有罪になるのかー4
「埠頭駅定食」を私有地に配置すれば有罪になるのかー5
以下が、器物損壊罪の構成要件です。
1、破壊・汚染などの方法を用いる。
2、故意(行為から一定の事実が発生することを認識している)。
3、他人の所有物の効用の全部または一部を滅失させる。
4、その他、犯罪の成立を妨げる事情がない。
先の記事は、放し飼い猫が他人の私有地に侵入し、当該土地所有者がその猫を殺傷したとしても器物損壊罪は成立しないという根拠を、2、3、の具体例を挙げました。
2、放し飼い猫は、野良猫と区別がつかない。したがってそれを殺傷した者は「他人の所有物を損壊させる」という故意が存在しない。
3、無登録動産の、所有権の第三者への対抗要件は占有である。猫は無登録動産であるので、所有権が認められるためには占有していることを要する。放し飼いは飼い主が故意に占有を離脱させている状態なので、放し飼いされている猫の所有権は認められない。したがって器物損壊罪の「所有物の毀損」には該当しない。
今回は「4、その他、犯罪の成立を妨げる事情」を取り上げます。それは他人の私有地内では可能性が高い、刑法上の「緊急避難」です。
問題にしているブログ記事を引用します。なお私は、あくまでもこの記述に対して批判を行っています。
2ch生き物苦手板の住民とのオフ会の報告
【弁護士の見解】毒餌は敷地内であっても違法行為から引用。
人に飼育されている犬猫を対象とする場合は、刑法第261条の器物損壊罪に該当します。
二つの犯罪が成立することになるのです。上記のような評価は、自宅敷地であろうとも公共の場であろうとも何ら変わりません。
他人の私有地内は、いわば他人の所有物のかたまりです。その他人の私有地に放し飼い猫を侵入させるということは、他人の財物を毀損さることが必至です。
他人の私有地にある財物には、高価なものもあります。例えば高級スポーツカーのフェラーリのエンツォというモデルは、新車価格で7,850円で、希少価値のプレミアムがついてそれ以上と言われています。猫が爪で塗装面を毀損させれば、百万単位の損害が生じるおそれがあります。対して雑種の野良猫は、仮に所有権が認められたとしても(その可能性は低い。所有権が認められなければ損害はゼロであるし、器物損壊罪自体成立しない)市場価値が0円に近いです。
犯罪においては、加害の多寡により量刑が増減されます。同じ窃盗罪でも、千円の万引きであれば起訴猶予程度ですが、初犯でも一億円を盗めば、かなり長期間の実刑判決になると思います。
放し飼い猫が私有地内で殺傷され、器物損壊罪が仮に有罪になったとしても(その可能性は極めて低いですが)、量刑は限りなく低くなるでしょう。対して放し飼い猫が他人の私有地内にある高価な自動車を毀損させた場合は、損害額が大きくなりますので、仮に器物損壊罪が成立すれば、放し飼い猫を殺傷された場合より、器物損壊罪での量刑ははるかに重くなります。
このようなケースも考えられます。私有地内に天然記念物が飼育されていて、放し飼い猫がそれを殺傷するようなケースです。飼育動物でも、天然記念物指定のものがあります。例えば、鶏の一種であるオナガドリは、国の特別天然記念物です。天然記念物は、文化財保護法により厳しく保護されています。第百九十六条 「天然記念物の現状を変更し、又はその保存に影響を及ぼす行為をして、これを滅失し、き損し、又は衰亡するに至らしめた者は、五年以下の懲役若しくは禁錮又は三十万円以下の罰金に処する」。
他人が私有地で飼っているオナガドリを猫の放し飼いにより死傷させれば、猫の放し飼い主は文化財保護法意反に問われます。
刑法では、緊急避難が定められています。緊急避難とは、「急な危険・危難を避けるためにやむを得ず他者の権利を侵害したり危難を生じさせている物を破壊したりする行為であり、本来ならば法的責任を問われるところ、一定の条件の下にそれを免除されるもの。やむを得ずに生じさせてしまった損害よりも避けようとした損害の方が大きい場合には犯罪とはならない」です。刑法37条1項に定められています。
前述オナガドリの例ですが、オナガドリの死傷は文化財保護法で懲役5年以下であり、懲役3年以下の器物損壊罪より重大です。それを避けるために、現に放し飼い猫により襲われているオナガドリを救出するために放し飼い猫を殺傷するのは、緊急避難が成立する可能性が高いでしょう。つまりこのようなケースでは器物損壊罪は成立しません。なお、動物愛護管理法も同様の理由で成立しません。愛護動物を殺傷してでも、特別天然記念物を守る方がはるかに利益が大きいからです。
フェラーリなどの高価な自動車でも緊急避難が認められる可能性はあります。私有地への、放し飼い猫の侵入を防止する対策を講じても防ぎきれなかったとします。放し飼い猫の市場価値がほぼゼロであることに対し、フェラーリの市場価値ははるかに高いです。現に放し飼い猫がフェラーリを毀損しているのであれば、フェラーリの所有者は放し飼い猫を追い払おうとし、それにより放し飼い猫が殺傷されたとしても、器物損壊罪は成立しない可能性があります。
仮に過剰避難が認められなくても、過剰避難が認められる可能性が高いです。過剰避難とは「緊急避難としてなされる行為で、生じた害が、その避けようとした害の程度を越えていると判断されるもの。情状によって刑が軽減・免除されることがある」です。
そもそも市場価値がほぼゼロであり、放し飼い主が故意に放し飼いを行い、先に他人の私有地に猫を侵入させるという権利侵害を行っているのです(私が一連の記事で取り上げている放し飼い猫は、・いわゆる雑種猫で市場価値がゼロに近い、・放し飼いが恒常的、のものとしています)。当然、放し飼い主は、他人の私有地に猫を侵入させれば、他人の物に被害を及ぼすということは認識できるはずです。
実務では、そのような放し飼い主の落ち度も考慮させます。ですから放し飼い猫により繰り返し被害を受け、その防御も行ったが効果がなく、現に被害を受けている状況でそれを排除するために他人の放し飼い猫を死傷させたとしても、(土地所有者)の行為は、器物損壊罪で起訴とされる可能性は極めて低いと思われます。仮に起訴されたとしても、過剰避難が最大限考慮され刑が免除される可能性すらあります。
またいわゆる「定食」の配置ですが、被害防止のための危急の行為ではないです。しかし猫被害の防御方法がそれ以外にない場合は、必ずしも緊急避難、過剰避難が否定されるとは私は思えません。
私が疑問に思うのは、いわゆる猫愛誤は猫の放し飼いや野良猫への餌やり行為に対して、異常なほど権利を振りかざすのでしょうか。引用した【弁護士の見解】は、著しく偏向しています。またこの見解を示した弁護士は、猫の放し飼いを行えば、逆に他人に対して被害を及ぼし、その法的責任が放し飼い主に生じることについて、全く触れていません。
放し飼い主の猫が殺傷された場合に主張できる権利より、放し飼い猫が及ぼした被害の被害者が求める権利の方がはるかに大きいのです。なぜならば放し飼いという落ち度のある行為をした事情が酌量されます。また放し飼い猫の市場価値はゼロに近く、対して放し飼い猫が及ぼす被害は、それよりはるかに大きくなる可能性があるからです。
「放し飼い猫でも殺傷すれば器物損壊罪になるぞ」とだけ強調するのは、自分たちの違法性を不問にし、それよりはるかに些細な相手の落ち度で恫喝する暴力団並みの根性です。【弁護士の見解】と聞いて呆れます。
「他人の土地に廃家電を投げ入れて、それがあたって新車が凹んだ。困った土地クルマの所有者は廃家電を廃棄処分した。それを廃家電を投げ入れた者が『俺のものを勝手に捨てたな。器物損壊罪だ』」と恫喝するのと同じ理屈です。そんなことを平気で言えるのは暴力団員でもカスだけです。
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